みなさま、こんにちは。IMJでディレクターをしている泉です。

IMJは企業のデジタルマーケティングを支援する会社なのですが、最近はリアルな場(主に店舗)におけるデジタル活用や次世代店舗開発などの支援をさせていただく機会が増えています。
「リアルな場」のデジタル活用だと、「アリババの運営するスーパーマーケット」など中国のニュースを目にする機会が昨今増えています。

そこで、IMJのサービスデザインをおこなうチームで、中国最大の都市上海と、中国を代表するICT企業のアリババが本拠地とする浙江省杭州市を、視察してきました。

いったい、中国でどんな進んだデジタル体験ができるのか? 事例とともにご紹介いたします。

最初に知っておきたい中国の2大ICT企業「アリババ」と「テンセント」

※筆者調べ

2018年8月14日時点の世界時価総額ランキングでは、
中国を代表するICT企業であるアリババとテンセントが、名だたるアメリカ企業に並んでトップ10入りしています。

今回見かけたサービスや店舗のほとんどにおいて、アリババとテンセントが関係していました。

アリババは元々EC系のサービスを、テンセントはメッセージアプリやゲームアプリを展開して、主にオンラインの世界でのサービスで成長してきました。

それが今や、オフラインの街中での生活者の日常生活も、根本的に変えるまでサービスの領域は広がっています。

中国イノベーション厳選事例を5つ紹介

視察中に多くの事例を見てきた中で、特にインパクト大だった事例を厳選して5つ紹介します。

1. オンラインとオフラインが融合してしまったスーパーマーケット「盒馬鲜生(フーマーシェンション)」

これはアリババが運営するスーパーなのですが、本当ににすごかったんです。

盒馬鲜生(フーマーシェンション)は、2016年末にアリババ創業者のジャック・マーが、自社開催のテクノロジー祭典「雲栖大会」で、「ニューリテール」のコンセプトを提唱し、生まれた店舗です。

2018年4月時点で約30店舗ほど展開されているようです。


「ニューリテール」というのは、オンラインとオフラインを融合する新たな消費形態を意味するそうで、OMO(オンライン・マージ・オフライン)とも言われています。(※2)

それってどういうこと?って感じがしますが、パッと見た感じは上記の写真の通り、来店して買い物ができる、ごく普通のスーパーなんです。

ですが、店内の奥に進むと、ベルトコンベヤーと大量の謎の緑色の手提げ袋が……。

そして、カートを押しながら買い物をしているお客さんの横で、スマホか何かの端末を手にしている店員さんが大勢いる不思議な光景。

様子を観察していると、驚愕の出来事が…。

オンライン注文が入ると、店員の端末に通知が来て、それを見た店員が手提げ袋を取り、売場から注文品を袋に入れて、それが終わると袋をベルトコンベヤーに投入します。

そして、袋はスーパーの外で待機している配達員のもとに届き、30分以内に顧客のもとに届けられるという仕組みです。

実際の様子を動画でご覧いただけます。

 

流れを整理しておきます。

つまり、これはオンラインの在庫とオフラインの在庫が1つにまとまって、「お店=倉庫」のような存在になっています。

専用の巨大倉庫施設から商品が全国に配達されるのではないんです。

全国各地のスーパーそのものがリアル店舗兼倉庫であり、棚にある商品はネットから注文できる在庫というわけです。

そして、自前の配達員を抱えて、注文を30分以内に届けてくれるわけです。

これすごいですよね。アリババは物流までも大きく変えてしまったわけです。

実店舗だというのに、店舗によってはネット注文が売上の70%を占めるところがあるのも頷けます。

2リットルの水を持って帰るのが面倒なら、それだけアプリから注文して、家に帰る頃には宅配してもらうことも可能なのです。

さらにすごいのが、リアルな場所としての価値を高めていることです。

弊社の中国出身のメンバーに確認したところ、すべての食材を調理依頼できて、その場にあるフードコートで食事ができるようです。

しかも、ユーザーが料理を気に入って、自宅で作りたいとなったら、
スマホでレシピを確認できて(動画あり)、必要な食材や調味料の全てが提示され、一括注文できる仕組みも整うとか。

 
(フードコートはとても落ち着いた雰囲気)

商品数も、アリババ運営の中国最大ECサイトのビッグデータ分析から、人の食生活を満足させるのに必要な商品数が算出されていて、5,000〜6,000の商品を取り揃えているらしいです。(※2)

   

(売場は品揃え豊富だけど、通路は結構ゆったりめ)

この店舗の場合、オンラインとオフラインを相互に行き来します。

まさにオンラインとオフラインが融合したオンライン・マージ・オフライン(OMO)ですね。

  • 新鮮な魚は実物を見て選びたいから、店に買いに来るけど、他にも色々買ったら重いので、それらはアプリから注文して、家に着く頃に届けてもらえる。
  • 風邪をひいた時は家からアプリで注文して、ご飯も風邪薬も30分以内に持ってきてもらえる。
  • フードコートには、その場だからこそ体験できるリアルならではの価値があって、人によってはそれだけでも十分価値を感じられる。
  • フードコートで気に入った料理は、スマホからレシピ動画が見られるし、スマホから丸ごと材料を買うこともできる。

   

(店の外には配達員が待機していました)

ごく自然に生活の中に、このスーパーのアプリが介在してきます。

オンラインからオフラインとか、タッチポイント有りきの考えではないんです。
生活者の行動をベースに体験が設計されており、そのために物流まで大胆な改革を行っていることが、大きな衝撃でした。

さて、盒馬鲜生は、2016年1月に1号店がオープンしたわけですが、それに遅れて2017年8月にアマゾンが米食品スーパーのホールフーズ・マーケットの買収を発表しました。(※3)

盒馬鲜生が実現した、30分以内の配送を実現する物流網、つまり国内各地にあるスーパーを倉庫として活用し、ネット注文の利便性をさらに高める狙いがあるのかもしれません。

アマゾンよりも先に、小売店舗を押さえにかかったアリババ恐るべし。

2. 個人店舗でも電子決済が当たり前「キャッシュレス化社会」

2つ目が、最近日本でもホットなキーワードになってきたキャッシュレス化の事例です。

以下の写真は、とあるお土産屋さんの光景です。

   

QRコードが印刷された紙が吊るされています。
このQRコードを使って決済ができます。

<決済の流れ>
1. スマホを使って、アプリでこのQRコードを撮影する
2. 金額入力画面が出てくる
3. 画面に店員さんに言われた金額をユーザーが自分で打ち込む
4. 決済する
5. 店員さんに決済完了画面を見せて、商品を受け取る。

この支払に使われるアプリが、テンセントが提供するWeChatペイ(緑の方)とアリババが提供するアリペイ(青い方)です。


(WeChatペイの決済完了画面)

アプリにユーザーの銀行口座の情報が紐付いていて、決済時に口座からお金が引き落とされるわけです。

多くのお店に、この2枚のQRコードが置かれています。

何がすごいって、店頭には専用端末も不要で、ネットワーク環境も、電源も不要で電子決済ができるんです。
しかもお店側にかかる決済手数料が無料です。(条件あり)(※4)

導入の敷居がめちゃくちゃ低いですよね。

中国でキャッシュレス化が凄まじいスピードで浸透したのもこういう理由があるわけです。

実はQRコード決済の仕方は、もう1パターンあります。

   

これは、アリババが運営するショッピングモールの中にあった、雑貨屋さんの中の無人レジ端末です。

   

右下のバーコードリーダーに商品バーコードを読み込ませます。そうすると画面に金額が表示されます。

   

内容確認の上、問題なければアプリで自分のQRコードを表示します。

   

QRコードをバーコードリーダーにかざします。

   

決済完了となり、端末側にもスマホ側にも成功の文字が出てきます。

このように大きく2パターンのQRコード決済の方法がありました。

  1. 自分でQRコードを撮影して表示されたページから決済を自分で行うパターン
  2. 店舗の端末にQRコードをかざして決済するパターン

ちなみに日本でもこのような決済手段に、LINEが本腰を入れ始めていて、2018年6月にコード決済普及施策が発表されました。

3.中国版Uber Eats、外食デリバリーサービス「外卖(ワイマイ)」

   

東京では、最近Uber Eatsのバッグを背負った配達員の姿をよく目にするようになって、段々と外食デリバリーサービスが生活が浸透し始めてきているのかなぁと感じることがあります。

しかし、今回中国で見た外食デリバリー事情は日本と圧倒的に規模感が違いました。

トップシェアの「餓了么(アーラマ)」(アリババ傘下)は、約100万店舗、約30万人の配達員を抱えているらしいです。(2017年4月時点)(※5)

日本のUber Eats加盟店が約1,000店、配達員数が約5,000人(2017年9月時点)であることを考えるとすさまじい数ですよね。(※6)

   

機能自体は、日本のUber Eatsとそこまで変わらないのですが、1点だけ良かった点がありました。

たまたま同じ店で注文しようとしている同僚が近くにいた場合、注文を一緒にして、送料の無駄を防ぎ、支払いは各自に請求を割り振ることができるみたいです。

日本のUber Eatsだと、誰かがみんなの分をまとめて注文して、後で各自が現金を渡して精算みたいなことになってしまうので、これは欲しい機能だなと思いました。

4.水道、ガス、電気のように生活インフラ化するWeChat(微信)or アリペイ

   

さて、すでに出てきたWeChat、アリペイですが、決済アプリのイメージがついてしまった人もいるかもしれません。

でも、それはほんと一機能に過ぎないんです。

実は決済以外にも以下のようなことができるみたいです。(※7)

  • 病院の問診予約
  • 出国手続きの予約
  • 免許の交通違反記録検索
  • 電車&バス等の乗車券
  • 公共料金の支払い
  • タクシーの配車手配
  • ホテル予約
  • 投資

…etc

もうこれがないと生活できないんじゃないかというくらい1つのアプリにいろんな機能が集約されていて、生活基盤になってしまっているわけです。

リアルの世界の日常生活にほとんどオンラインが絡んでくる。ごく自然に。

中国ではすべての利用履歴が国に閲覧される環境になっており、個人情報を差し出すのと引き換えに、便利さを享受しているというわけですね。

日本人なら、この事実を受け入れられない人も多いかもしれません。

「便益のために個人情報を提供する」と答える人の割合が、日本人の場合、10%弱に対して、中国人は40%弱にまで到達しているデータがあります。(※8)

中国人は、個人情報を差し出すことに肯定的な傾向のようです。

一概に個人情報を提供することが悪いとは言えず、これも考え方次第なのかもしれません。

5. 行動履歴からユーザーの信用度がスコア化され、受けられるサービスに差が生まれる「芝麻(ジーマ)信用」

日常生活に必要なあらゆることを1つのアプリでできるようになるということは、それだけサービス運営者(アリババやテンセント)がユーザーの行動を細かく把握できることになります。

そうすると、集まったビッグデータの解析から、信用できる人・できない人の行動パターンが特定できるようになります。

ユーザーの行動が、信用できる人・できない人の行動パターンのどっちに当てはまるか特定して、信用度のスコアリングを行うという驚きのサービスが、アリババの「芝麻(ジーマ)信用」です。

   

スマホの画面に636という数字が出ていますね。
これがこのスマホの持ち主さんの信用スコアとなっています。

このスコアは以下の通り、350点〜950点の中で分布されるようです。

(引用元 https://glotechtrends.com/cashlesssociety-zhimacredit/)

  • 350-550(较差)=悪い
  • 550-600(中等)=普通
  • 600-650(良好)=良い
  • 650-700(优秀)=信用度が高い
  • 700-950(极好)=とても信用度が高い

高スコアだと低利で多額のお金を借りられたり、レンタカーやホテル宿泊で保証金が不要になったり、その他にも何かレンタル系のサービスを利用する際にデポジットが不要になったりするそうです。(※9)

オンライン、オフライン問わず、日々の行動に対してつけられた信用スコアで、リアルな世界でできることも変わってきて、その行動がまたオンライン上で自動でスコア化されてくという、ほんと境目がないですよね。

この信用スコアは出会い系アプリ(百合网)のマッチングにまで応用されています。

実は日本でもこのような信用スコアを始める動きが出てきました。

信用スコア、日本の先駆け Jスコアとヤフー連携 金利0.1%優遇

まとめ:中国の進化は、ガラケーを経験した日本人だからこそ面白い

 事例はまだまだ他にもたくさんあったのですが、この5つの事例からだけでも、日本と中国の光景が随分と異なることを感じていただけたのではないかと思います。

中国の進化はすさまじい。
この進化が世界の最先端を行くのか。

それとも、かつて日本の携帯電話がガラケー(ガラパゴス携帯)と呼ばれたように、中国国内でしか普及しない進化になってしまうのか。
日本人ならではの視点を持って、趨勢を見ていける面白さがあります。

日本ではLINEが、アリペイやWeChatペイみたいな存在となり、生活者のあらゆる行動データを押さえて、そのデータを元に、より良い生活を作ってくれる可能性も感じます。

日本の未来がどうなっていってほしいか、そこに向かって自分は何ができるのか、想像するきっかけになってくれたら幸いです。

私の所属するService Creationチームでは、まさに、根本的な改革が必要とされる課題に対して、サービスデザインの手法を用いて解決することを得意としています。

「既存の枠組みの中で、あれこれやっても手詰まり感がある。何か根本的に新しいことをやらないと先に進めない気がする…」そのような課題感をお持ちの場合は、ぜひご相談ください。

データ参照元:

※1 『AIスタートアップ資金調達、中国が世界一 米国抜く』 日本経済新聞 2018/2/22:
https://scdn.line-apps.com/stf/linecorp/ja/ir/all/2018042502JP.pdf

2 『【アリババニューリテール戦略の全貌】第3回:盒馬鲜生(ファーマーションシェン)は4つの複合体O2Oスーパーマーケット|アリババ』 GloTech Trends:https://glotechtrends.com/alibaba-new-retail-170906/

3 『アマゾン、ホールフーズ買収完了へ 生鮮品など値下げ』 GloTech Trends https://www.nikkei.com/article/DGXLASGT25H0R_V20C17A8EAF000/

4 『手数料ゼロでも利益が出るアリペイの秘密』 中華IT最新事情:http://tamakino.hatenablog.com/entry/2018/04/04/080000

5 『中国全土で見かける“青いバイク”の正体--中国デリバリーアプリ最前線』 CNET Japan:https://japan.cnet.com/article/35102066/

6 『フードデリバリー「UberEATS」が1周年--高橋社長が実績を披露』 CNET Japan:https://japan.cnet.com/article/35108026/

7 『Alipay(アリペイ)とは?中国で主流のスマホ決済システムについて』 デジタルマーケティングブログ:https://digitalidentity.co.jp/blog/globalmarketing/alipay.html

8 『データエコノミー 個人情報、日本は警戒感強く』日本経済新聞 2018/7/16:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO33026850V10C18A7NN1000/

9 『【キャッシュレス社会】芝麻信用(読み方はジーマ信用)とは?杭州では信用を使ってお金を節約できる!』 GloTech Trends:https://glotechtrends.com/cashlesssociety-zhimacredit/