数々のプロジェクトでカスタマージャーニーマップを導入した実績をもつUXD(※ユーザー エクスペリエンス デザイン)専門チームに所属し、先日UXデザインを実践したい人に向けた書籍、『Web制作者のための UXデザインをはじめる本 ユーザビリティ評価からカスタマージャーニーマップまで』を執筆したメンバーでもある太田さんにカスタマージャーニー導入がうまくいく方法について話を聞きました。

最近「カスタマージャーニーマップを作りたい!」というクライアントニーズ増えていますよね?

そうですね。ここ1、2年で急にマーケティング業界でバズワードになって、私たち自身驚きました。そもそも「カスタマージャーニー」って言葉は10年くらい前からあったんですけど、その時はまだ意識高い系のUXD業界の人たちがデザインツールとして使っているものでした。それが「ユーザーの行動を可視化するとてもいいテンプレートがあるぞ」とマーケティング業界で注目され始めて、僕らとしてはクライアント担当者からそんなに具体的な手法名を聞くなんて思いもよりませんでした。

その後、世の中でなんとなく、「カスタマージャーニーって作ったけど意味あるの?」という風潮がでてきたようにも思います。

▲ハイプ・サイクル

そうなんです。「カスタマージャーニー」が良くも悪くもカジュアルに捉えられるようになって、正しく理解しないままにやってしまったということが原因と思います。私たちのチームにもクライアントから「社内でやってみたけどうまくいかない」と相談をいただくことが増えました。

ガートナーのハイプ・サイクル(右図)を参考にすると分かりやすいのですが、おそらく一度この手法への期待が膨らみすぎたせいで、ピーク期から幻滅期に入ったのかなと思います。でも、逆に、今まさに一度失敗した人もこれから本当の価値を分かっていく「啓蒙活動期」であると予測しています。

※参考URL:https://www.gartner.co.jp/research/methodologies/hype_cycle.php

マップを作ること自体が目的化してしまった部分もあると思うので、今一度この手法の本来の目的みたいなものを教えていただけますか?

本来「カスタマージャーニー」は、新しいサービス・製品を開発する際に使うもので、ユーザーの行動と感情の上がり下がりやユーザーと企業の接点はどこにあるのかを可視化し、議論するためのデザインツールです。この手法では「議論すること」に意味があり、それによって新しい接点や見えていなかった課題を発見することができます。

▲カスタマージャーニーマップのテンプレート。基本的な構造は、「ステップ」、「タッチポイント」、「行動」、「思考」、「感情曲線」を表すレーンと、「現状課題」と「改善案」というテキストによる記述をするレーンで構成されている。

なるほど、ディスカッションがポイントになるのですね。では、ダメなカスタマージャーニーとは具体的にはどんなものでしょうか?

これまでいろんなケースを見てきたなかで、このパターンに陥っているところは絶対失敗する、逆にそれを裏返せばだいたいうまくいくというパターンが見えてきました。
ダメなポイントは「基づかない」「開かない」「壊さない」の3つです。

 

① 基づかない:データに基づいていない。想像で作ってしまっている。

インタビューや行動観察といった地道なユーザー調査(定性調査)をして定性データを集め、そのデータを時系列に行動に分けて並べることで、カスタマージャーニーの原型ができます。
しかし、多くの場合、データに基づかずに「ユーザーがこんなふうに動いて使ってくれたらいいのに」という夢物語を描きがちです。新しい発見をするためには、「発見源」であるユーザーの行動データがなければ成立しないのは当然です。

でも、ユーザー調査自体は結構している企業も多いですよね?

いや、既存の調査は参考にならないことがほとんどです。大概の場合、定性調査でも「発見型」ではなく「仮説検証型」のインタビューになってしまっていることが多いので、仮説を発見するためのカスタマージャーニーマップには役立たないのです。発見型の調査は、ユーザーも気づいていないような言葉の裏を読むデプスインタビュー行動観察などの適切な手法で実施しないといけないので、結構難しいんです。IMJでは、必ずカスタマージャーニーマップ作成の前に、簡易であってもユーザー調査というフェーズを設けています

 

② 開かない:いつもの現場・内輪だけで作ってしまっている。

社内の一部門の人たちだけでカスタマージャーニーマップを作っても意味はありません。いろんな角度で、いろんな部門の人が見て一貫したブランド体験を提供できているか議論していくことで見つかる穴が沢山あります。
また、ワークショップをする際、参加者にターゲットもしくはそれに近い人と、そうでない人がいるなかで議論するほうが、成果が出やすくなります。いろんな立場の人が客観的に「これ、どうしてなんだろう?」と疑問を投げかけあうことで発見が生まれます。

発見を生める議論のコツってなにかありますか?

それは「なぜ?」という質問ができるか、です。実は、日本人は普段、人の意見に対して「なぜ」を聞かない傾向にあるので、発見を生む議論が苦手とも言えます。
ワークショップのような特殊な空間を用意することで「なぜ」が増えて、結果発見も増えて議論の質があがります。また、普段から社内で「なぜ」というコミュニケーションを多くすることを心がけていても良いかもしれませんね。

③ 壊さない:一度完成することで満足してしまい、作りっぱなしにしてしまう。

きれいに清書して成果物として出来上がると、それに満足して壊したくなくなってしまいがちです。しかし、ユーザーも世の中もすぐに動いて変化していくものなので、我々もさらに調査してカスタマージャーニーマップを動かしていくことが大切です。
カスタマージャーニーをうまく活用しているところは、清書せずに付箋紙などに書いて常に壁に張っておいて、毎週のように動かしているそうです。

でも、クライアントからすると、予算をかけてつくったものを壊したくないと思ってしまいそうですが?

分かります。ただ、カスタマージャーニーはあくまで新たな仮説を発見するものなので、作ったらどんどんプロトタイピングして検証していかないといけません
なので、僕らがお手伝いする際は、マップだけでなく、そこから見つかった、すぐに実行できるアクションプラン(検証プラン)リストをセットでアウトプットするようにしています。プランがでると予算が無駄になったとは思わないはずです。

今のお話しを裏返すと「いいカスタマージャーニーマップ」の作り方が見えてきましたね。

はい、ダメなポイント「基づかない・開かない・壊さない」の裏返し、「データに基づいてやる・みんなで議論をする・どんどん壊していく」が、うまくいくパターンであり、僕らのチームでは、それを「IMJのサービスデザイン三原則」として、

  • 「Human-Centered, or Die」(人間中心=データドリブン)
  • 「Co-Created, or Die」(共創=Side by Side チームによるデザイン)
  • 「Quick-Piloted, or Die」(高速仮説検証/サービスプロトタイピング)

を提唱しています。

最後に、実際にカスタマージャーニーがうまく機能した際のクライアントの反応や声を教えてください。

実際に、マップをもとに発見した課題を改善して成果が上がったというような声も、もちろんあるのですが、それにとどまらず、担当者さんたちの考え方のレイヤーが変わったという面白い声があったりします。


多くの企業は、ユーザー目線ではなく商流目線で考えてしまいがちです。しかし、調査をして生の声を聴くことで、ユーザーの行動が見えてくるので、自然と「どう売るか?」ではなく「何を売るべきかもう一度問いましょう」という、“そもそも論”をするようになりました
また議論をして「なぜ力」が強くなることで、価値のあるものを精査する能力が上がり、有意義な議論に繋がるのかもしれません。

まとめ

カスタマージャーニーも使い方次第。一度やって手ごたえがなかった方も、今一度この手法をちゃんと理解して活用していけると成果につながるかもしれません。UXDをより体系立てて知りたい人は書籍を参考に。
記事内にもある通り、カスタマージャーニーマップ活用には調査フェーズやファシリテーション力が重要なので、お困りの際はぜひIMJまでお気軽にご相談ください。

 

『Web制作者のための UXデザインをはじめる本 ユーザビリティ評価からカスタマージャーニーマップまで』

玉飼真一・村上竜介・佐藤哲・太田文明・常盤晋作 株式会社アイ・エム・ジェイ著

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