2016カンヌライオンズ 日本勢は苦戦!のなぜ

江端 その多彩な経歴のなかで、須田さんは数々の広告アワードを受賞されていますが、カンヌライオンズでも何度も高い評価を受けられていますね。

須田 WEBの仕事を始めたのは2005年。YouTubeが設立された年で、FLASHが動画をサポートするようになったりして、動画のスキルをWEB広告に活かせる環境が整いはじめた頃ですね。もう足掛け11年になりますか。気がつけば黎明期っぽいころからこの業界にいたんだなぁという。

江端 その多彩な経歴のなかで、須田さんは数々の広告アワードを受賞されていますが、カンヌライオンズでも何度も高い評価を受けられていますね。

須田 まだ新人だった頃、大貫卓也さん(現・大貫デザイン/多摩美術大学教授)のチームで参加した日清食品・カップヌードル「hungry?」が最初です。1993年のフィルム部門グランプリをいただきました。2009年「ミクシィ年賀状」メディア部門ブロンズ、2013年ロッテ・カフカ「泣きやみ動画」サイバー部門ブロンズ、そしてスダラボで応募した2014年青森県田舎舘村「ライスコード」でPR部門とアウトドア部門でゴールド。カンヌとは20年近くご縁があります。かなり珍しいタイプだと思います。

江端 長いですね。しかも対象がバラエティに富んでいて、須田さんらしいなと。その間、カンヌへはずっと行かれているのですか?

須田 いえ、連続して行くようになったのはここ3年ほどです。毎年見ていると、時代の変化が見えてきます。潮流というか、インとアウトがはっきりわかってきて非常におもしろいです。カンヌがどこに向かうのかと、広告がどこに向かうのかがシンクロして見えるんですよね。

江端 カンヌライオンズ自体も、いろいろ変わってきていますね。

須田 特徴的なのは、カテゴリーの爆増と、「広告」という名称がなくなったこと(カンヌ国際広告祭から、2011年カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルに変更)ですね。受賞作の傾向が激変したのもその頃で、2012年は「NIKE+FuelBand」がサイバー部門のグランプリでしたね。衝撃的だったのは、2010年BESTBUY「Twelpforce」のチタニウム部門グランプリ。あの受賞には驚きました。

江端 「NIKE+FuelBand」はR/GAが制作。計測リストバンド「NIKE+」が進化した「FuelBand」ですが、NIKEの哲学がわかりやすく、印象的でしたね。「Twelpforce」は、家電に関する質問をTwitterで@twelpforceをつけてつぶやくと、BESTBUYの従業員が部署に関係なく答えてくれるというおもしろいシステムでした。WEBを最大限に活かしたアイデアですよね。

さて、今年も日本からたくさんの応募がありましたが、須田さん的にはどんな印象でしたか?

PANASONIC「LIFE IS ELECTRIC」

資生堂「HighSchool Girl?」

 

須田 はっきりしていたのは、日本勢の苦戦ですかねぇ。

江端 デザイン部門のグランプリはPANASONIC「LIFE IS ELECTRIC」が受賞しましたね。資生堂「HighSchool Girl?」はフィルムクラフト部門のゴールドでした。日本の応募作で善戦したものもありますが、アイデアや日本人ならではの緻密さは評価されたものの、それ以上のブレイクスルーがなかった感じがします。

クリエイティブとテクノロジーを両立させることが大切。

須田 以前からデザイン部門では、繊細なクラフト感で日本はずっと評価されてきましたよね。その傾向が今年またはっきりしたという感じ。他に目立ったのは、昨年新設されたライオンズイノベーション部門にGoogleなどが本気で応募してきたこと。グランプリのGoogle Deep Mind「AlphaGo」は技術そのものというか、エンジニアリングそのものが受賞。WEBサービス会社が、ガチで賞を獲りに来たわけです。

江端 ハードコアなデベロッパーであるGoogleが参入してきたというのが、今までと全然違いますよね。AIとかIoTが入ってきているところが大きい。

須田 彼らは未来の「広告」を、さらに自らの事業ドメインに強力に取り入れたくて、カンヌにプロモーションに来ているのかなと思いました。今後は、また流れが変わりそうですね。同様にカンヌ狙いだなと思いつつも、今年一番印象に残ったのがINGの「The Next Rembrandt」です。

 

 

 

江端 サイバー部門とデータクリエイティブ部門でグランプリを受賞しましたね。レンブラントの新作絵画を作るというキャンペーン。最先端の技術で、古いものの未来を見る。あの発想はすごいですね。

須田 現地で日本のクライアントの技術研究所の方々とお話しする機会があったんですけど、バリバリの研究職から見ると「カンヌライオンズという賞はカテゴリーの区切りもよくわからないし、そもそも何を評価しているのかもわからない」と、おっしゃっていました。テクノロジー的にはさほど最新でもないのに評価されたりして、その基準がよくわからない、と。「評価の軸は技術の新しさではなく、面白いかどうか。古い技術でも使い方が新しいとか、ユーザーにウケるかどうかにあるんですよ」と言ったら、納得されてました。

江端 技術の基礎はあるけれども、それが消費者にちゃんと伝わるように砕くのが広告の仕事ですね。必ずしも、新しいものである必要はないですからね。

須田 勘違いしがちな部分ですが、最先端のテクノロジーを競うのでなく、その使い方の頓知を競い合っているんですよ。僕たち広告屋にとっては、そこは誇るべきところだと、再確認しました。

カンヌの最終決戦では わかりやすいものが勝つ

江端 また今回、日本勢では若い世代が結構受賞していますね。手前味噌になりますが、ヤングカンヌ(ヤングライオンズ/スパイクスコンペティション)では、弊社のチームもサイバー部門でゴールドをいただき、日本代表に選ばれました。

須田 おめでとうございます。僕もヤングライオンズ2016の日本国内選考の審査に携わりましたが、郡司さん・武市さんの作品は水引を使うなど独創性に富んでいておもしろかったですね。

江端 ありがとうございます。昨年から強化策をやっていまして、今年は課題が英語でも日本的でわかりやすかったのと、ビジュアルのクリエイティブもハマったようです。しかし、世界大会ではさすがに皆さん手強いですね。

須田 今年の国内選考は全部門が同じ日に審査となったから、どの部門で参加するか早い段階から選ばなくてはいけなかったんですね。その結果、応募作品の質が上がりました。

江端 今回のテーマは「99% of stomach cancer is caused by Helicobacter pylori」。胃がんリスクの99%はピロリ菌に由来というわかりやすい内容ですが、扱いは難しいですよね。

須田 課題が身近で自分ゴト化しやすかったのもあるでしょうが、全体的にレベルは高かったですよ。「ピロリ菌をそのままにするとあなたは胃を失います」という恐怖訴求で攻める作品も多々あったんですが、あるレベル以上で最終決戦となった時に、ネガティブアプローチは選びにくかったんです。トップ2は、ほぼ迷いなく決定しました。

江端 ネガティブな発想だとまさに胃が痛くなってしまいますよね(笑)。

須田 そうなんです。トップ2は発想がポジティブでした。そして、ビジュアルが非常にわかりやすかった。結納、水引というキーワードは海外には理解されにくいものですが、結婚に向かう段階の男女がピロリ菌の検査をするという提案はアリだなと思えて、よかったと思います。

江端 “You know, I know.” お互いを知るという発想がよかったのでしょうね。

須田 ピロリ菌のマークの使い方がうまかったですね。キャラクターを、そのまま使わずに水引を用いた“ずらし”が絶妙に良かったんです。日本人は繊細さで評価されることが多いですが、他の国からの応募作品はもっと乱暴というか、とにかくパワーが強いので目立ちます。サイバー部門の審査の後で、疲れ切った審査員が見て、いいぞと思えるもの。通りすぎる時にパッと目に入って、いいね!と思えるのがよい広告。時には、ちょっと乱暴で、短絡的なものが勝ったりします。

江端 野球で言えば、大振りの外国人バッターばかりの中で、日本人はホームランをなかなか狙いに行かないという感じでしょうか。三振かホームランか、ではなくて、確実にランナーを進めるヒットを狙うという。

須田 「外してもいいから大振りしろ」という割り切りはなかなか難しいですよね。しかし、カンヌライオンズのようなアワードでは、1位を取ることに意味があるわけで、3位までは記録に残るけど4位以下は名前も何も出ませんからね。最終決戦では乱暴とも言えるパワーが必要です。でも、国内予選でそういう作品が上がってくるかというと、それも難しい。矛盾した部分があり、使い分けるしかないでしょうね。

――須田和博さん・前編はここまで。後編は、スダラボに学ぶ若手クリエイターの育成法や業界の未来についてお送りします。是非ご覧ください!