若手の自主性を引き出す スダラボという仕組み

江端 須田さんは2014年から「スダラボ」という独自のチームで活動されています。スダラボは社内的にどういった位置づけにあるのでしょうか? “自主開発型”のチームだそうですね。

須田 メンバーはみんな現業(普段のクライアントワーク)をやりつつ、それとは別にラボでは、やりたいことをやっています。

江端 具体的にどんな活動をされているのですか?

須田 毎週1回集まってアイデア出しを行います。ジャンルは問わず、頼まれもせず、ただ自分たちがやりたいこと、社会的価値があること、「あったらいいのに、なんでないの?」「こうだったらいいのにな」という発想と開発を自主的に進めるんです。

江端 自主プレゼンなども行われるのですか。

須田 いえ、自主プレはやりません。自主プレの最大の欠点はクライアントに決定権があるということ。広告会社の根本矛盾ですが、自分たちのアイデアなのに、クライアントに決定権がある。実施予算も、マーケティング目標も、クライアントのものだから、現業では当然なのですが、それとは「違う回路を作る」というのがスダラボの最初の「実験」でした。だから自主プレはせず、ひたすら自主開発を行うんです。開発できたものを実施してくれそうなところに持ちかけて、実施するかしないか即決してもらうというやり方をしています。

江端 「ライスコード」の画像認証など、新しいテクノロジーもふんだんに取り入れられていますね。

 

ライスコード

▲ライスコード

 

須田 技術のネタを仕入れて、誰にでもわかるアイデアを注入して、社会的にこうだったらいいなというのを形にするラボなので、新技術はどんどん取り入れます。育成も兼ねているので、若手が新領域にフレンドリーに入れる訓練にもしたいんですよ。

江端 自主開発なんて、クリエイターにとっては楽しくてしょうがない場でしょうね。

須田 でも、自主開発だけだと、それはそれで苦しいですよ。現業をやりながらがちょうどいい感じですね。予算もないですし、アーティストのように、本当にやりたいことだけでは、ビジネスに結びつかず、続けることも難しくなります。そこで、コマーシャルの現業で稼ぎ、R&Dとして自主開発をやることは互いにプラスになる、と。自主開発で試したことが次のオファーに生きたりします。スダラボもまさにそうで、現業と自主開発が健全な循環を生んでいるのだと思います。

江端 新しいものにチャレンジしていくというか、次々出てくるものをどうやって取り入れるか。それができないと現業もついていけないですよね。先ほどの話にあったように、カンヌライオンズも、それ自体がチャレンジしていっているように思います。

須田 カンヌライオンズは、新カテゴリーを作るたびに自分自身をR&Dしているんですよ。ダメだったらその部門は廃止にしてもいい。とりあえず試してみる。そのためには、“Yes”から始めることが大事ですよね。やってみたらいいなと思うことを、“Yes”と言ってすぐ実際にやれる仕組みが重要ですね。

江端 そうですね。実現できる仕組みは大切。ふと思いついたことをやるのは普段なら難しいけれど、スダラボという仕組みならチャレンジできますね。

須田 1週間に1回、3時間だけ定例会を開きます。部員は7名。これ以上減ったら立ちゆかないというギリギリの人数だから、抜けることもできないので幽霊部員も発生しない。年間活動予算は大したことないですが、お金があろうとなかろうと「やる」と決めているので「やったほうがいい」となれば、あらゆる手を使って実現させます。「360°ホラー」でIMJさんと組ませていただいたり、いろんな関係者を巻き込んでいったように(笑)。

江端 お金のことも含めた仕組みが重要ですよね。

須田 ラボの若者たちも2年ですごく成長しました。活気がある部署には若い子の能力を活かせる場があるし、上に立つ人間はそんな環境を作るのが仕事です。糸井重里さんがあるインタビューでおっしゃっていたんですが、良い会社の条件は、「赤ん坊にもわかるようなやる気のあるいい空気がある」こと。僕は「これをやれ」とか「やらなきゃいけない」とは絶対に言いません。それでもラボの若い子たちは自分から「やる意識」を持ってくれる。「やらされ」ではない、前向きな「やる」気持ちって、大事ですね。

江端 自主性を引き出すことは、マネジメントでも一番重要なことですよね。

“Yes”の発想がまったく新しいものを生む

須田和博さん

江端 スダラボが生んだ「ライスコード」は町おこしの新しい方法として、経済効果を生んでいます。流行り廃りという次元を超えて、これからも続いていくものでしょう。須田さんが常におっしゃっている「最古」×「最新」の組み合わせの面白さは、日本がもっと世界にアピールしていける分野だと思うのですが、実際にはあまり利用されていなくて勿体ない気がしますね。

須田 日本の地域性や文化を説明するだけでは、世界では通用しません。「ライスコード」が評価されたのは、「農業? お、すげぇ。スマホで認証? お米が買えるの? おもしろい!」という、あのわかりやすさでしょう。また、農村の過疎化の問題はおそらく世界中で共通し、共感できる問題ですよね。モチーフが田舎であるとか都会であるというのでなく、アイデアのポイントがまず「誰でもわかる」というところに立脚していれば、世界でも戦いようはあります。

 

江端 今後日本がリードしていけるのは、古き良き伝統や、少子高齢化などの課題先進国としての問題でしょうか。他国に先んじてきちんと商業ベースにのせたサービスなり広告として、展開できるチャンスはあると思うんですが、いかがですか。

須田 僕もそう思いますね。Appleがiモードにヒントを得てiPhoneを作ったような発想を、日本人が意識的にできるかどうか。エッジ・オブ・エッジな日本独自なものを、使いやすいように再解釈し、世界に通用する普遍的なものにできるかにかかっていると思います。

江端 iPhoneも、日本のメーカーが持っている要素技術をApple社が仕入れて作っているわけですからね。

須田 でも、その時にまだ存在しないような市場を突然作るようなリスクをとるカリスマが、日本にはいなかったんですよね。「元ネタは全部日本にあったのに!」といつも思うけど、そもそも「これを世界中に売るんだ!」という発想というか、野望がない。

江端 今話題の『ポケモンGO』も、まさにそれですね。日本発で展開できなかったわけですから。

須田 僕ら日本人は発想もあり、何よりも元ネタを持っているんですけどね。人の家の敷地内や公共の場の位置情報にコンテンツをくっつけることは、日本人はやろうとしなかった。

江端 日本人はそこで危険性や肖像権などの問題をまず考え、「NO」から入るから結果としてできないんですよね。“Yes”の発想で世界を席巻した『ポケモンGO』は来年のカンヌのグランプリかも。

須田 アリだと思います。あのインターフェイスは本当によくできていると思います。アメリカと日本の公開タイミングのズレとか、PR的にも絶妙でした。今、報道されているいろいろな注意喚起も宣伝効果は高い。完璧でしょう。

IoTにも古い感覚は必要だ!

江端 今後、須田さんが個人的にやりたいことって何ですか?

須田 IoTと言われるものですかね。全部の物体に通信が入り、メディアになる。広告のプロとしては、その時にどういうプランニングができるのかなと。たとえば紙コップが、ボールペンがネットにつながっているなんて「キモい、理解できない」という感覚もある。それを「すぐ捨てちゃうし、意味ないかもしれないけど、とりあえずこれがネットにつながっているのって、意外といいよね」と感じてもらえないと普及しないんですよ。

江端浩人

江端 その意外な解決策を見つけていくのが、須田さんたちの仕事ですね。クライアントにも納得していただかないといけませんし。

須田 広告プランナーとしては、どうすれば「みんなが使いたくなるか」をひたすら考えます。それはTVCMやWEB広告と地続きな思考とも言えるんですが、一方で相当違う思考も問われるはずです。そこに「最古」な感覚も必要かもしれません。「ICチップがついていても、割り箸はやっぱりパキンと割りたい」みたいな。パキンと割る快感がプランニングされてこそ、パキンと割る瞬間が計測できるんですよね。

江端 そのためには、須田さんのようにいろいろな経験をしてきた方の発想が求められますね。今の時代、変化がすごく早いですよね。『ポケモンGO』のようにあっという間に世界制覇したものは、人類史上初めてじゃないですか。『ポケモンGO』についてはShelly Palmer氏もコラムで触れていますが、彼の言葉によると「これから先で最も変化が少ない日は、今日」なんですよ。

須田 なるほどね。それに近い名言で僕が大好きなのは「今日が一番若い」ですね。今日が一番年寄りじゃないんです。未来に目を向ければ、今日が一番若い。そのプラス思考がいい。最新のものばかり追う「最新中毒」になると、それはそれで苦しい。行ったり来たりするのがいいと思います。新しいものに興味本位で飛びつきつつ、全然新しくないことも「なごむよね」というのが健全だと思います。

江端 AIとか発展してくると、そういった領域に人が入っていかないと、テイクオーバーされる部分も出てきますものね。

須田 そうですね。だから僕は、AIはいち早く普及してほしいと思っています。AIに対抗する「まさか」の組み合わせを人間として考えていきたいので。自分が関わってきた仕事の変化をみていると、なんとなく7年周期なんですよ。その説でいけば、次は2020年頃にもう1回チェンジがありそうですね。

江端 ポストオリンピックで日本がどうなるかという、節目の年になにかあるかもしれないですね。また我々を驚かせてください。本日はありがとうございました。

須田 こちらこそ、ありがとうございました。お話しできて、楽しかったです。