前回の記事では、リアルタイム性を求めるといった効率性へのニーズを表す4傾向をご紹介しました。

今回は、デジタルを通じたコミュニケーションが普及したことによって、ライトさやラフさを重視するようになったと予想される4つの傾向をご紹介します。 

各傾向についてチェックリストを設けていますので、ぜひ自社のサービスや顧客体験と照らし合わせてみてください。  

連載INDEX

[潮流#1]デジタル行動の浸透がもたらした12のユーザー体験傾向とは?

[潮流#2]あいまいさの補正、記憶のアウトソース…デジタルにサポートされるのに慣れた生活者

[潮流#3]「絵文字がないと、感情が伝えにくい…」適度なライトさが体験設計の鍵に。(本記事)

9.文章の読み書きの負担がない

日常的にチャットツールで短文での会話をし、日記はSNSでフォトダイアリー的に残し、板書代わりスマートフォンで撮影する。私たちの生活の中で、長文を読んだり、書くという負担が少なくなってきました。これは思い当たる方も多い傾向ではないでしょうか。

説明書や契約書を読まなくてはいけないとき、200文字以上の文章を書かなければならない状況になったとき、「う…」と拒絶反応を示してしまう人も多いのではないでしょうか?

この傾向に対しての賛否については、今回の分析の主旨からは外れますのでこの場で問いませんが、こういった文章の読み書きの負担から解放された生活者は、それを強いられる状況はストレスに感じるようになってきていると考えられます。
 

チェック

☑ 体験者に長文を読み書きさせる体験がないか?
☑ 読み書きの負担を減らす工夫があるか?

例えば、以下のようなサービスはこの潮流にうまく乗れている体験といえます。 
 
【潮流を表すケーススタディ】 

App Storeより

‐ Audio book:本を読み上げてくれるサービス。
‐ Livedoorニュース:ざっくりいうと機能を備え、短文で理解しやすいようにしている。

会話形式のコンテンツや記事など、チャットUIの活用というトレンドもこの傾向への対応しているといえます。

10.デジタル上の情報を引用して伝える

これは先ほどの読み書き負担の減少傾向に近いですが、誰かになにかを共有するというシーンに関する傾向です。

Twitterで自分の意見に近いものをRTする、参考ページや参考動画のURLを教えて情報を伝える、スクリーンショットを撮って「これだよ」とシェアする。そんな行動が当たり前になってきています。
 
そういった体験から、人に知らせようとしたとき、シェアしにくい状態になっていたり、シェアや引用に関するルールが明確でないと、ストレスを感じるようになっていると思われます。
 

チェック

☑ 引用やシェアを前提にしたコンテンツ設計になっているか?
☑ 引用やシェアに関する見解を示せているか?


【潮流を表すケーススタディ】 

‐ サービス紹介動画:新しいサービスを発表・紹介するとき、それさえ見ればサービスが理解できるような動画を作成することが増えています。

例)IMJのインバウンド広告サービスの紹介動画


‐ 2次利用を許諾するようなオフィシャル見解:
任天堂がゲーム実況動画などへのコンテンツの利用について公式でガイドラインを出す、展示物の撮影をOKにするアート展といった事例がでてきています。

11.文字や言葉以外で感情を伝える、受け取る

Facebookの「いいね!」ボタン以降、ボタン1つのタップで好意的な意志を伝えるという行動が、自然になりました。また、LINEを日常的に利用する人々にとっては、スタンプが自分の感情を言葉より的確に表現してくれるという体験を積み重ねています。

「文字だけのメールだと気持ちが伝えにくいな。」「コメント機能があるけど、絵文字がなくて不便。」そんなストレスを感じたことはありませんか?

文字以外の絵文字やアイコンなどで感情を伝える、受け取るという体験が当たり前になった今、それが実現できないと、不便を感じるようになっているのだと思われます。

チェック

☑ コミュニケーション場面で、絵文字等の表現が用意されているか?
☑ 絵文字やスタンプを用いたほうがよいUIはないか?


【潮流を表すケーススタディ】 

(左)Slackの絵文字 /(右)絵文字を使ったアンケート Fjord Trendsサイトより

‐Facebookのいいね!表現の多様化 

‐Slackの絵文字:ビジネスチャットにも関わらず、自由度の高い絵文字を用意。 

‐顔文字を使ったアンケート手法

12.ライトにゆるくコミュニケーションする

実際には長らく会っていない知人とも、SNSでライトにつながり続ける。Twitterで誰宛てともなく独り言をつぶやく。知人の子供の入学に「いいね!」するといった、気軽なグリーティング行動。(SNSがなかったら、きっと祝うこともなかったかもしれないですよね。)

デジタルサービスの普及は、そんなライトでゆるいコミュニケーションの形を生みました。そんなコミュニケーションに慣れた結果、人々は、ある程度のゆるさやライトさがないと息苦しく感じるようになっているのではないでしょうか?

 

チェック

☑ ユーザーがストレスに感じないような、ゆるさやライトさがあるか?
☑ 便利を追求した結果、ライトさを損なっていないか?


【潮流を表すケーススタディ】 

(左)Instagramストーリー 公式サイトより/(右)名刺管理アプリEight 公式画像より


‐Instagram ストーリー機能:ポストした投稿が一定期間経過後に消えるので、「気づいた人だけに見てもらえればいい」、履歴には残らないという気楽さがある。

‐TikTok:15秒の動画SNS。失敗しても気軽にアップできる″ゆるさ”がある。

‐Eight:名刺交換でつながり、気軽に近況をお知らせできる名刺管理・SNSサービス

 

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最後にこの記事で取り上げた、ライトさやラフさのチェックリスト部分をまとめたものを掲載しておきます。 

【ライト/ラフ】のチェックリスト

☑ 体験者に長文を読み書きさせる体験がないか?

☑ 読み書きの負担を減らす工夫があるか?

☑   引用やシェアを前提にしたコンテンツ設計になっているか?

☑   引用やシェアに関する見解を示せているか?

☑   コミュニケーション場面で、絵文字等の表現が用意されているか?

☑   絵文字やスタンプを用いたほうがよいUIはないか?

☑   ユーザーがストレスに感じないようなゆるさやライトさがあるか?

☑   便利を追求した結果、ライトさを損なっていないか?
 

 3記事にわたって、ご紹介してきたエクスペリエンス潮流分析レポート。
生活者、ユーザーとして実感ある部分があった方も多いと思います。

もちろんサービスや体験の特性上、各傾向の重要度は異なりますが、自社の顧客体験創りに不足している視点に気づいたり、準備している新サービス検討の参考になれば幸いです。

 

反対方向に突き抜けるのもあり!? アンビバレンスの考慮が必要

最後に1点、この潮流レポートの活用の仕方について補足します。

今回の分析レポートは、慣れ親しんだ体験がないとストレスを感じるという仮説のもと、分析を行っています。ただ、人間なので、ある一方の体験に慣れて偏っていくと、それと相反する体験に価値を感じる傾向もあると思います。
例えば、多くのコンテンツから自ら選び取る体験が増えたことで、誰かがおすすめを勝手に選んでくれるような体験に価値を感じるといったことです。

よって今回抽出されてた傾向の反対方向に突き抜けることで、価値を生み出すということも考えられます。特に、エンターテインメント性の高いサービスの場合、あえて不自由をさせて楽しませるという仕掛けもあると思いますので、考慮して活用していただければと思います。 

 

連載INDEX

[潮流#1]デジタル行動の浸透がもたらした12のユーザー体験傾向とは?

[潮流#2]あいまいさの補正、記憶のアウトソース…デジタルにサポートされるのに慣れた生活者

[潮流#3]「絵文字がないと、感情が伝えにくい…」適度なライトさが体験設計の鍵に。(本記事)

◆エクスぺリエンス潮流調査レポートとは? 

サイトやアプリ単体ではなく、体験全体を設計・改善していく際の指針づくりを目的に、IMJニンゲンラボにて調査。

「当たり前に普及したサービスをひもとくことで、それに慣れた人々は、こういった要素がないと不便に感じるようになっているのではないか」という仮説のもと、普及したデジタルサービス(利用率4割以上、普及スタートより5年以上経過したものを目安に10個)をピックアップ。それらに紐づく行動を分解・再分類することで、当たり前化した行動の特徴をあぶり出し、今求められているであろう体験の傾向を導きました。 
 
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