再発明チャレンジとは?
IMJが現在掲げるスローガン、「REINVENTING THE EXPERIENCE = 体験を再発明していく」を体現するための活動。
実際のクライアントとの共創プロジェクトはなかなかご紹介できないので、トレーニング的に勝手に再発明テーマを設定してさまざまな体験の再発明にチャレンジしてみて、その過程を公開していきたいと思います。

※前回の再発明チャレンジ「オムツの利用・購入体験を再発明してみよう」はこちら

今回のテーマは…アイドルやアーティストのファンクラブ体験の再発明!

昔からあるアーティストやアイドルのファンクラブという仕組み。以前の記事「ファンクラブの最新事例を調べてみた」という記事でヒアリングをした際に見えてきたのが、デジタル活用は最低限進んでいるが、体験価値を向上することができていないかも?という課題。
デジタルで体験が向上するのではなく、むしろ「デジタルチケット化が進んで、手元に残らないので悲しい」や「紙のときのほうが見ていたかも」といったデジタル化することで体験価値が下がっているという状況も見えてきました。

短期間でアイデアを創出し、検証するというデザインスプリントの手法を参考に、各技能をもったメンバーが短期間集まり、創出したアイデアのプロトタイピングを行い、ブラッシュアップすることにチャレンジしました。

1.まずは、ユーザー分析!

今回はアイドルやアーティストのファンクラブに加入している4名にインタビューを実施。彼らがより長くファンで居続けてくれるような新しい体験づくりに対して、デジタルを活用してなにができるか?ということについて考えていくことにしました。

ユーザーの発言や行動から見えてきたことは… 

  • ライブ体験に最も高い価値を感じている 
  • ライブの参加歴はファンにとって勲章のようなものである 
  • ライブ直後に余韻を楽しんだり、1年後に「あのときのー!」と振り返る 
  • 会員メリットとしてチケット先行予約のみが重要視されている (そのほかのキラー価値がない) 
  • SNSもあるので、ファンにむけた画一的なコンテンツ発信にはあまり価値を感じていない 

2.アイディエーションしてみる(発散→投票→発散→投票)

上記を踏まえて、チームで3時間のワークショップを行い、アイデア発散⇒投票⇒アイデア発散を繰り返しました。 

絞られた4つのアイデアのストーリーボードについて、昨年実施されたDesignshipイベント会場で掲示して、参加者の皆さんにも投票してもらいました。 

たくさんのアイデアの中から、もっとも票を集めたサービスアイデアがこちらです!

【アイデア概要】
AIが編集してくれる! 世界にひとつだけのライブVIDEO!
ファンクラブ会員は事前に登録しておくと、ライブ会場でたくさんのカメラでビデオ撮影された自分の姿や登録しておいた好きなメンバーがたくさん映った自分だけのオリジナルムービーが受け取れるというもの。
ファンが編集機能で編集したものは、ファン同士で売り買いできるという機能も。


これまでの体験からREINVENTされる点をまとめました。 

3.プロトタイピングしてみる

…で。投票はたくさん集まったけれど…、実際にファンはどう思うのだろうか?

考えたサービスアイデアのユーザー価値を検証するために、プロトタイプを作成し、最初にインタビューした社員4名に見て、触ってもらうことにしました。

じゃあ、動画を作ってみましょうか!と動画制作チームに声を掛けようとしたところで、「おっと、危ない、危ない」。いったんブレーキです。

今回はデザインスプリント手法を参考にしているので、なるべくクイックに価値が検証できる方法ということで、動画制作に長けたメンバーでなくてもすぐに制作できる写真のスライドショーとサイトのモックでプロトタイピングしてみることにしました。

【作ったプロトタイプ】
・スマートフォンサイトのモック(サービス紹介、申し込み、購入&編集画面)
・プレビュー動画のイメージ(写真をつなげたスライドショーレベル)

【検証したいこと】
・実際にこんな映像がつくられたとき、どう感じるか?
・一連の体験でみたときに、どこに魅力を感じるか?

【検証方法】
・一連の動作を思考発話しながらみてもらう
・感情曲線を描いてもらいながらインタビュー 



4名とも、使ってみたい!と答えていて、好感触。ただ、やはり、プロトタイプを体験してもらって検証できたこともたくさんありました。 

4.検証で分かったこと

気づき①自分が写りこむことはそれほど価値が高くない!

自分が写りこんだイメージを想像しながらプロトタイプムービーを見てもらったところ、「自分が映るのはちょっとだけでいい」「自分よりはアーティストがたくさん映っていてほしい」発言が多くできました。同行した友人と「ははは、うけるー!」と視聴するイメージはつくが、数シーンだけ十分であり、自分の好きなメンバー=推しメンがたくさん映る価値のほうが圧倒的に高いということが見えてきました。
しかも、5公演あったツアーのうち、DVD化されるのは1会場と限定されることも多いので、自身が見に行った公演の姿を残しておきたいという気持ちも強いようです。 

気づき②推しメンバーの良さを引き出す編集力が大事!

今回<AIが自動で編集してくれる!>という想定のアイデアでしたが、AIという文言自体には「お!」と反応を示したものの、よくよくヒアリングしていくと、アーティストの良さを引き出す編集に価値があるということが分かってきました。
「この歌で観客は写さなくていい!」「ここはこのメンバーを写すべき!」そんなこだわりがあるようです。また、ファンの中にも動画編集に長けたファンが存在し、SNS上などで共有される編集動画を見て「この人はよく分かっているな」「この人は推しのよさを引き出すな」と思ったりするという意見も。
AIよりはファンの編集力のほうが信頼されそうだということが分かってきました。 

気づき③ライブ後はなるべく余韻に浸っていたい!

今回のプロトタイプでは、ライブの翌日にプレビュームービーが届くという設定にしていたのですが、その部分に関して、かなり反応が高かったです!
余韻が残っているうちに、見られるのはうれしい。」「現実に戻りたくないので、ライブ後になにか来るのはいい!」という声がありました。今回はあえて翌日という無茶な設定で検証しましたが、いかに余韻に浸る体験が重視されているのかが発見できました。 

気づき④売り買いはファンの一体感を壊す可能性も!

編集した動画を売り買いできるような機能について聞いたところ、前述したように編集好きなファンがいるので、利用するイメージが付くという声があった一方で、ファン同士でのビジネスが発生するのは、ファンの絆を壊す可能性があるという指摘もありました。
同じアーティストを愛する仲間としての一体感を重視しているため、そこは大切にしたいというリアルな意見が聞けました。

5.ブラッシュアップのための再アイディエーション

プロトタイピングでの気づきをもとにブラッシュアップの方向性を探るため、再びアイディエーションプロセスに戻り、改善案を出したところ、2つの方向性が見えてきました。

<ブラッシュアップ方向性 A>
自分が写りこむのではなく、好きなメンバーの映像がよりたくさん映っていて見ることができるということに特化していく方向性。例えば以下のようなアイデア。

クラウドファンディング式 推しカメラDVD

クラウドファンディングで一定数の予約数に達すると、推しメンバー専用のカメラが設置され、推しメン多めのムービーがファンクラブ限定でオンライン販売される。


<ブラッシュアップ方向性 B案>
長尺の映像コンテンツとして提供するのではなく、シーンごとに細切れに提供して、好きなカットをバラで買ってもらう、もしくはつなぎ合わせる編集をしてもらうという方向性。例えば以下のようなアイデア。

10秒単位のショートムービー購入・編集サービス

ファンクラブ限定でライブ直後に、10秒ごとにカットされた動画を購入・編集できるサービス。編集したものは、サービス内でシェアされ、人気のものは公式認定されて、販売される。

今回の再発明チャレンジはここで終えますが、さらにプロトタイピングしてブラッシュアップしていくイメージが付きました。

6.おまけ:再発明しようとして、身近な改善案もたくさん見つかる。

今回、プロトタイピングでユーザーの声を聞いた後の再アイディエーションでは、REINVENTINGというよりも、すぐできる改善案やキャンペーンのようなアイデアも創出されました。「あれ?これはすぐできそうだね」「これはすぐにやったほうがいいよね?」と盛り上がりました。

例えば、ユーザーからの「神席の場合は、特別なんです!」(神席=最前列などアーティストに近い良い席)といった発言を受けて、「だったら、神席の人だけが思い出に残せるサービスがあったらよいのでは?」、「プレビューの30秒動画で十分嬉しいし、友達に、行ってきたよー、とシェアすると思う」といった声を受けて、「ライブ当選時やライブ後に気軽にシェアできるようなムービーを配布したら?」というアイデア等がでました。

中でも、ライブ後の余韻を求めるタイミングで、ファンクラブ運営側からのアプローチがほぼ「ない」という気づきから、ライブ後のCRMコミュニケーションをきちんとやるという方向性も価値が高そうという発見もありました。

企業視点だと、売りたいタイミングになるDVD発売前後にコミュニケーションが集中しますが、ユーザー視点でプランしてみると、余韻が残っている状態にさらにライブの体験価値をアップさせるような施策がたくさん出てきました。短期的な収益というよりも、長くファンでいてもらうことに効果がありそうです。
ファンクラブ非会員のライブ参加者とコンテンツでつながって、会員化していくという仕組みづくりのプランにもつながりそうです。

ユーザー体験や事業モデル自体を発明しなおすということを目指したワークでしたが、足元の改善案も見つかったという意味では、普段から改善案を出す際に、少し大きめの課題設定をして、実現不可能そうなアイデアでプロトタイピングしてみるという価値もあることが分かりました。

◆総括

素早く形にしてユーザーのフィードバックをもらうというプロセスを踏むことで、価値が高いのでは?と思っていたものが、想定と違っていたり、微妙なファン心理を垣間見ることができ、プロトタイピングの重要性を実感できました。
フィードバック後のワークでは、参加メンバーはよりユーザー目線に立った発言をしており、視点やマインドの変化が確実に起こりました。

今回の活動で考えたことについては、おそらく現状課題の解決や、利便性や収益性のみを追求していたら出てこないアイデアだと思いますので、顧客体験を再発明(REINVENT)するには?という問いから始めることの重要性を改めて感じました。

問いの立て方次第で、今までの視点では出てこなかった、“今すぐ手を打てる”新しいアイデアが出てくることもあり、新しい体験創出の初めの一歩になりうるので、特段新規事業や新サービスを考える必要性のない場合にも、いろんな制約を取っ払って「顧客体験を再発明してみよう!」といった視点でワークしてみるのもありかもしれません。



プロトタイプ制作、ワーク参加:
阪田裕里子、吉岡英理子、渡辺みどり
大世渡麻子、新田定士、松本健太、吉澤真帆

デザインスプリント監修:
市川英子

ニンゲンラボとは?

デジタルの力でニンゲンの生活がどんどん進化していく。変わっていく行動様式と、変わらない人間の根源的欲求。多様化していくライフスタイルと、多層化していくコミュニケーション。
企業に、顧客視点=ニンゲン視点がより一層求められる中、生活者の姿はだんだんと見えにくくなっています。
デジタルを通じて、ユーザーエクスペリエンスを作り続けてきたアイ・エム・ジェイだからこそ、デジタルを通じて変革・進化するニンゲンの「今」と「未来」を研究していきます。