まず、「PANICOUPON」の概要をざっと説明すると、

オキュラスリフトを利用したホラームービー、『360°ホラー』を観て上昇した心拍数の度合いに応じて、SHIBUYA TSUTAYAに在庫している映像販売商品(DVD/Blu-ray)を対象とした、100円~2,000円までの割引クーポンが発行される。

というものです。

とにかくまずは、やってみよう。ということで、オキュラスリフトとヘッドフォンを装着し、『360°ホラー』スタート!

まず、上下左右どこをむいても異なった光景が目の前に広がります。通常のホラー映画と異なり、ゾンビが自分を完全に包囲しているため、まるでおばけ屋敷にワープしたような感覚。急に後ろに振り向いたらすぐそこに……!なんてこともしばしば。顔や体を動かしても、迫りくるゾンビから逃げることができるはずもなく、ただひたすらに追いつめられていく感覚は想像以上の恐怖でした。また、自分自身が高い地点から落下するシーンや、高い位置から物が落ちてくるシーンなどは、映像であるとは知りつつも平衡感覚を失ってしまうほどの忠実な再現がなされていました!上下左右どこを向いても楽しめるオキュラスリフトの効果が、ホラー映画の「恐怖を与える」という目的にうまくフィットしていると感じました。

 

佐藤 「最初に届いた脚本は、結構本気のホラーだったんです。でも、体験している人が街角で気分悪くなっちゃったりしたらシャレにならないよね、ということで誰でも楽しめるように割とライトな内容にしました」。

とは言いつつも、私は声を上げてしまいましたが……。作品自体は短い時間ながらも非常に満足できる物でした!

 

しかし、ムービーが終了してから感じたのですが、オキュラスリフトはあくまで非常に個人的な体験なのです。映像はゴーグルをしている人にしか見えないし、恐怖も本人しか味わうことができない。このイベントを街中でやったとしても、楽しめるのは体験者だけじゃないの?と率直に感じてしまいました。これがどうやって、プロモーション、広告として多くの人に伝わっていくのでしょうか。

 

佐藤 「この企画は、オキュラスリフトで何か面白い事をやろうというところから入ったんです。モノから決めたんですね。だから、個人の体験をどうやって『広告』として成立させるか非常に悩みましたね。もし仮にオキュラスリフトが家庭用に普及していたとしたら、アプリを配るとか方法はあったんですけど、家庭用に普及していないどころか我々が使える台数も限られていました。そうなると、やっぱりリアルでイベントをやるしかなくて、そこから、じゃあ体験者自体をメディア化しようって事になったんです」。

 

あくまでパーソナルな体験である『360°ホラー』は、もちろん本人しか楽しむことはできませんが、怖がる体験者のリアクションを周りの人が楽しむこともできるし、心拍数をリアルタイムでビジュアル化することで、体験者の恐怖を共有することもできます。そして、その場で共有された恐怖体験はダイレクトに数値化されて、クーポンになる。そうやって、ロジックが固まっていったんですね。

 

佐藤 「やっぱり、シンプルな企画っていいなと思いましたね。伝わりやすいです。特にリアルのイベントは、参加者の顔ですぐ良かったか良くなかったかがわかるので、すごくやりがいがありますね。今回のようなシンプルで伝わりやすい企画は、今後もたくさんやっていきたいです」。

 

個人の体験をその場にいる人たち全員の体験に押し上げる一歩踏み込んだ発想と、簡潔さ、わかりやすさが、スパイクスアジアの審査員の目にとまったポイントだったのかもしれません。

 

また制作段階では、このアイディアを実現するための技術面での苦労もあったそうです。

 

佐藤 「心拍数をビジュアル化する、と言うまでは良かったんですが、じゃあ、それどうやってやるのって話になってしまいました。最初は市販の医療機器の信号をハックしてそれを使えばできるんじゃないかと思っていたんですが、予想以上にパッケージ化されていてそれができなかったんです。もう、自分たちで作るしかないということになって、基盤やセンサーなど部品を購入して自分たちで一から作りました」。

なんと、心拍数を測定すると同時にビジュアル化できる装置は、既成のものではなく、自分たちで作ったんですね。IMJのDIY精神に驚きを隠せませんでした。

 

佐藤 「最近、IoTって言われるじゃないですか。Web業界の人間にとって、ものづくりってすごく遠い存在だったんですよ。でも、最近はそのハードルがぐっと下がっているように感じます。手作りの心拍計がなければ、この企画は成立しなかったですし、そこに私たちのアイディアが詰まっていると言ってもいいくらいですね。実際、オキュラスリフトのことではなく、心拍計に注目してくださる方がけっこういて、取材の依頼も何件かいただきましたね」。

 

立案から完成に至るまで中身にかなりこだわった企画だったようですが、その他の面においても、今回の企画を通して見えてきたこともあったようです。それは、企画に直接かかわることのない人たちのことを頭の隅で想定していくことの重要性です。ひとつの企画を受賞などの成果にまで持っていくには、体験者目線で行うコンテンツの作りこみと、対外的なプロモーション戦略を両立する必要があると、佐藤さんは感じたそうです。

 

佐藤 「イベント自体を楽しんでもらうことが一番大事で、私たちもそこに向かって企画を練っていきました。でも、今回賞をいただいた要因のひとつとして、エントリーのためのプロモーションムービーなど、資料制作を徹底的に行ったことも挙げられると思います。中身も大事ですが、外側を強化することの重要さを今まで以上に強く感じました。そういった点は、今後の企画にも活かしていけると思っています」。