<体験を再発明>していく時代が到来!

ベルは電話に再発明された

発明ときいて、何を思い出すでしょうか? エジソンによる電球の発明? ベルの電話機? はたまた、その電話を「再発明する」といったスティーブ・ジョブズ氏でしょうか?

テクノロジーが進化し、デジタルが日常化した今、顧客体験はデジタルの力で「再発明していく」時代になったと言えます。それを表したのがIMJが新たに掲げた「REINVENTING THE EXPERIENCE」というスローガンです。

REINVENTING THE EXPERIENCE

常識に縛られない発想で、顧客体験を劇的に向上させ、新たなビジネス価値を生み、社会的な価値まで生み出す体験を設計し、実際に作り出すこと。

果たして体験の再発明はいかにして起こせるのか? すでに世の中で起こっている事例をもとに研究していこうという試みが本シリーズです。

まずは、いわずもがなの著名事例ですが、あえて最も分かりやすい事例であるUberをタクシー乗車体験の再発明という視点で捉えたときにどう分解できるか、研究してみたいと思います。

タクシー乗車体験の再発明=Uber

デジタルで顧客体験を向上させ、ビジネススケールさせた最も著名な事例。

モバイルアプリとC2Cプラットフォームを活用し、乗客とドライバーのマッチングを実現し、都市での移動スタイルに変革を起こした。

デジタルトランスフォームできていなかった既存のタクシー業は、Uberの出現により廃業にまで追い込まれる事態に。

1. 顧客体験はどう再発明されたのか?

まず、顧客体験がどのように再発明されたのか見てみましょう。

上記の図にあるように、既存のタクシー乗車だと、
道路で手をあげてつかまえる(つかまるまでイライラ)→行き先を伝える(うまく伝わらないとモタモタ)→運転手の当たり外れがある(イライラ)→料金は到着後に分かる(モヤモヤ)→清算(時間がかかりモタモタ)という調子でかなり不満を感じることも多かったところを…

アプリでスムーズに予約!→位置情報で今いる場所までピックアップしにきてくれる!→行先もすでに伝わっている!→料金もドライバーの評価も事前に把握できる!→オンライン決済で手間なし!顧客体験が格段に向上しています。

検索行動、決済行動といったどこか一部分のみを改善したのではなく、一連の体験を一気に向上させているということが分かります。

2. ビジネス体験はどう再発明されたのか?

次にタクシービジネスの提供体験という視点でどう再発明されたのか見ていきましょう。

既存のモデルでは、タクシー協会はライセンスを発行しライセンス料を徴収するので、サービスそれ自体はドライバーに委ねられる構造になっていましたが、Uberはオンライン上で利用者とドライバーの間に入ってマッチングするというサービスに対しての仲介料をもらうモデルを作り出しました。
マッチングによって業務が効率化されたことに加え、この構造と、用者が評価をフィードバックするというオンラインでは当たり前になっていた仕組みをオフラインの体験に持ち込んだことで、サービスの質が向上したことは大きな発明だったと思われます。

3. 用いられたテクノロジーは?

この発明に用いられたテクノロジーを見ていきましょう。

モバイルアプリ、GPS連携、Online決済、CtoCプラットフォーム

並べてみると、いかがでしょうか?
そうなんです。意外と技術自体は目新しいものというわけでなく、オンラインの世界では一般的だったものであり、さきほど書いた通り、それをタクシー乗車というフィジカルな体験に持ち込んだというところで価値を生んだといえると思います。

4. 発明によってもたらされた価値とは?

研究メンバーでディスカッションしながら、この発明によって生まれた価値を顧客価値、ビジネス価値、社会的価値に分けて整理してみました。

機能的価値:アプリでのシームレスな体験、待ち時間からの解放 金銭的価値:キャッシュレス、価格の透明性 情緒的価値:ドライバーサービスの質の向上、ラグジュアリーなドライブ体験

まず、顧客価値を見ていただくと、機能的価値、金銭的価値、情緒的価値がバランスよく満たされていることが分かります。やはり利便性や価格の面だけでなく「乗車体験が心地よい」というのは重要だったのではないかと思います。
また、この価値分析中に、「ただ、Uberにとってはドライバーも顧客だよね」という声があがりました。乗客だけでなく、ドライバーの体験も向上させたという点で、ひとつの発明で複数のプレーヤーの体験を一気に向上させるということがキーになるのかもしれません。

次にビジネス価値ですが、既存のモデルよりもコストダウンや効率化されたという価値と、プラスして新たな収益を生んだという価値に二分できました。
前者としては、無駄な待ち時間がカットされることによる効率化に加え、データ予測による効率化、ユーザー評価によるドライバー教育コストカットといったデジタルならではの価値を生んでいます。また、データは自動運転という新しいビジネスチャンスにもつながっていますし、デジタルプラットフォームとしてサービスの拡張や同一モデルの横展開などにもつながりました。既存のビジネスモデルの効率化のみでなく、デジタル化することでのデータ資産やデジタルならではのモデル展開などが再発明のキーになりそうといえます。

最後に社会的な価値という面ですが、Uberが公式サイト上にも載せているのが、都市における飲酒運転の防止に役立っているという点です。また、気軽にできる雇用創出としての価値も大きかったでしょう。その他にも、Uberインパクトによって、業界全体のサービス改善の底上げや行政や法の変革、インキュベートファンドの活性化なども挙げられると思います。ただ、性犯罪の助長に代表されるようなネガティブなインパクトもありました。
再発明によってもたらされる社会的価値を考えると同時に、起こりうる副作用にどう対処していけるのかということも、持続的な成功には必要になってくるのかもしれません。

5. なぜ既存のタクシー業者には成しえず、Uberにはできたのか?

最後に、ここまでの内容を踏まえ、なぜもともとタクシー業を展開していたプレイヤーたちではなく、Uberが再発明できたのか?という点をまとめてみたいと思います。

1)既存の枠組みからの脱却

新規参入者であったUberは、業界のしきたりや既得権益に縛られることがないが故に、ドライバーと乗客の両方に価値をもたらした。

2)圧倒的な顧客視点

既存のビジネスを起点としたトランスフォーメーションではなく、顧客の体験を向上させることを起点にしてサービス設計をおこなった。

3)着眼した分野

タクシー業というフィジカルかつライセンスビジネスというイノベーションが起きにくいと思われていた分野においてデジタライゼーションした。

まとめ

大事なことは、君の頭の中に巣くっている常識という理性を綺麗さっぱり捨てることだ。
もっともらしい考えの中に新しい問題の解決の糸口はない。 -トーマス・エジソン

古くからのしがらみの多い業界・業種は、イノベーションが起こしにくいと思いこんでしまいがちですが、Uberのように、それにとらわれずに顧客視点を追求するサービスが発明されると、これまでたまっていたユーザーの不満や不便さがエネルギーになって一気に成功する。

既存の枠組みのせいで顧客価値が置き去りにされている業界・業種こそ、デジタルによる再発明による大きなチャンスがあり、それと同時にスタートアップに破壊されるリスクが大きいことを意識する必要がある。

今回のUber事例の分解で、再発明に必要なのは顧客価値をコスト、情緒、利便性を兼ね備えて設計しつつ、さらにビジネス価値、社会的価値まで設計できるか?ということが見えてきました。

では、このような設計をしながら、既存のしがらみから脱却できるのはスタートアップ企業だけなのでしょうか、次回以降は、スタートアップではなく、かつ国内の企業を取り上げてみたいと思います!

 

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