ニンゲンラボ事例研究とは?

REINVENTING THE EXPERIENCE(体験の再発明)と呼べるような生活者の体験をデジタルので力で変革させた事例から、そのようなイノベーションに必要な要素は何なのかをあぶり出していく、ニンゲンラボ事例研究。前回はUberを取り上げました。

⇒Uberのケースはこちら

学習体験の再発明=スタディサプリ

※スタディサプリオフィシャルページより

2018年10月時点で高校生向けサービスの有料会員数が30万人を超える学習アプリ。5教科18科目・4万本以上の授業動画が月額980円で見放題という圧倒的な価格設定で会員数を伸ばす。

個人向けの大学受験生対策のサービス「受験サプリ」としてスタートし、学校での利用、小中学校へと対象を広げ、2016年、公的機関との連携を始めるとともに「スタディサプリ」としてサービスを統合。

さらには別サービスを買収する形で、海外への展開も果たす。こういったインフラ化をスピード感をもって行える点は、学習塾やスタートアップではなしえない、スタディサプリならではの強み。

本記事はあくまで公開されている情報をもとに研究したものであり、弊社の実績紹介ではございません。

1.顧客体験はどう再発明されたのか?

まず、顧客体験がどのように再発明されたのか見てみましょう。

これまで予備校や塾における学習で発生していた地理的な制約や時間の制約の問題を解決し、また通信教育と比べても価格の負担を減らすことで、かなりハードルの低い、そしてアクセスしやすいサービス体験を実現しています。また、デジタルならではの、「見放題!」というコンテンツの充実度と、そこから自分にあったものを自由に選び取れるという体験を実現させています。

学生達は自身のスマートフォンを持ち、自宅ではパソコンやタブレットを使える環境にあるケースが多くなったというユーザーの環境変化に応じて、最適な学習サービスを生み出したといえると思います。学生たちがスマートフォンで音楽や映像といったエンタメコンテンツを選ぶような感覚で、気軽に自分にあった授業を選べる体験を作り出しているのです。

スタディサプリは、既存の予備校授業の補完サービス、既存の紙ベースの通信教育のデジタル補完といった視点で生まれたのではなく、高校生の生の不満の声に気づいたリクルートマーケティングパートナーズ社が、ユーザーオリエンテッドでいちから作りあげたサービスであったことが、この体験設計ができた理由ではないかと思います、

2.ビジネス体験はどう再発明されたのか?

次に学習ビジネスの提供体験という視点でどう再発明されたのか見ていきましょう。

言わずもがなですが、塾などの店舗型学習サービスといった既存のモデルでは、講師の雇用、土地・建物、教材費といった形で1店舗につき、大きなコストが掛かりますし、店舗の立地によって集客も左右され、そもそも集められるユーザー数に限りがあります。
スタディサプリにおいては、これらのコストが必要ないことで、低価格でのサービス提供を実現しています。また、動画配信の形とすることで、コンテンツとしても、一回で多くのユーザーに提供することができます。

さらに、スマホ/タブレット上でのユーザー行動はデータ化され、サービス改善の取り組みを行いやすい土壌が自然と出来上がっていることも、大きな特徴です。前回のUberのケース同様にデータがたまればたまるほど、サービス価値が高まる仕組みになっているのです。デジタルを活用した体験の再発明にはこの要素が必須になっていそうです。

3.用いられたテクノロジーは?

この発明に用いられたテクノロジーを見ていきましょう。

Uberのケースと同じく、際立って目新しい技術が用いられているわけではありません。
ただし、この基本的な技術を安定的に提供できる(インフラ化できる)点や、利用データを分析し、サービスのブラッシュアップに活かしていく際の勘所といった点は、既存企業として、しっかりとしたバックボーンがあってのことと考えられます。

4.発明によってもたらされた価値とは?

研究メンバーでディスカッションしながら、この発明によって生まれた価値を顧客価値、ビジネス価値、社会的価値に分けて整理してみました。

まず、顧客価値を見ていただくと、機能的価値、金銭的価値、情緒的価値が非常にバランスよく満たされていることが分かりました。
テクノロジーの面から見ても際立って新しいサービスではないだけに、特にこの3つの価値が全て高いレベルにあることが、利用者拡大の大きな要因と考えられます。

スタディサプリの提供した大きな体験の変革は、デジタルの力で学習をする際の時間と場所の制約を取り払ったことです。このことにより、利用したい教材や塾が近くにないユーザーでも、スマホやタブレットで質の高い授業を受けられることになりました。また、部活やアルバイトなどで忙しく、自習の時間が確保できていなかった学生も、通学時や就寝前など、いつでも気軽に学習が行えます。

ただ、学生の「周りについていけない…どうしよう!」という情緒面での問題を解決したことも、サービスを伸長している大きな要因と言えます。
スタディサプリでは、自分の弱い部分や理解できていない部分を、学年を遡って(同じサービスで小学生レベルまで!)視聴することで、周りの目を気にして引け目を感じることなく、レベルを落として取り組むことができます。

さらに、月額980円~という価格設定は親の負担を減らすと同時に、「親に高額を払ってもらっている」という子供の心理的負担の軽減にも寄与したのではないでしょうか?

次にビジネス価値を整理しました。
物理的な制約を極力削減し、同じモデルで、ビジネスマンをターゲットに英語学習や資格といった別の学習に横展開し、収益を拡大しつづけられる土壌が出来ているといえるでしょう。

一方で、既存企業ならではの体力を持っており、損益分岐まで到達するところまで拡大させる戦略を立てて推し進められたということも成功の要因であると考えられます。

社会的な価値としては、やはり公教育への参入が非常に大きい事柄であるといえます。

サービスリリース後の、学校教師からの問い合わせの声を受けて、学校向けのサービスを打ち出した結果、700校以上の高校で採用され、学校のICT改革に一役買うサービスという位置付けを確立。

ともすれば対立軸で捉えられがちな学校教育とこの学習サービスを結び付けたことは、学校・学習サービス双方の在り方について一石を投じるものであって、また、通信技術やサービスの発展した現在においても、学習に関する地域の格差が大きいことは、進学率や実績にも表れており、その点に関する貢献は大きいものと考えられます。

5.なぜ既存の業者には成しえず、スタディサプリにはできたのか?

最後に、ここまでの内容を踏まえ、なぜもともと学習サービスを展開していたプレイヤーたちではなく、スタディサプリがこのように体験を再発明できたのか?という点をまとめてみたいと思います。

1)既存事業の延長ではないチャレンジ

既存の事業をデジタル化するのではなく、ターゲットの不満点から最良の顧客体験をつくるには?という問いからスタートできた点。リクルートマーケティングは高校生との接点はもっていたが、利用できる具体的なリソースは持っておらず、逆に固執せず、オンライン学習単体でのあるべき姿を検討し、最適化することができた。
ビジネスモデルとしても、リクルートグループはこれまでマッチング事業をコアとしてきた中で、ユーザー課金モデルというチャレンジだった。

2)データの取得と活用

ユーザーの行動をデータ化して活用することで、ユーザーそれぞれに個別最適を提供しつつ、ビジネスとしてもコストをかけずに改良できる仕組みを作った。利用ユーザーが拡大するほど、データ量が増え、価値が高まる仕組み。

3)公教育との結びつき

「学校教育のICT改革」、「教育格差をなくす」という社会問題の解決と結びついたことは、サービスがよりスケールしていく上で重要だったのではないか。日本国内でサービスをスケールさせる場合は、このような社会性や大義名分がより重要と思われる。

まとめ

昨日のことばかり考えていたらより良い明日に辿りつくことはできない。

 ─チャールズ・ケタリング

今回は既存の国内企業が実現したサービス体験の再発明の例として、スタディサプリを取り上げました。

既存企業ならではの強みを生かして、サービスを実現・スケールさせている一方で、スタートアップの場合と同様、あくまで新規参入&新たなビジネスモデルへのチャレンジをしつつ、圧倒的な顧客目線で体験を作り出したことが、成功につながっていました。

成功している既存企業であるほど難しいですが、過去の成功モデルや、現在の資産にとらわれず、顧客視点で未来のサービスを作るという視点を持てるかが分かれ道なのかもしれません。

参考記事)

受験業界の「黒船アプリ」 なぜリクルートが創れたか

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO20731950U7A900C1000000

スタディサプリは教育産業に「革命」を起こすか

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/102600176/102600003/?i_cid=nbpnbo_lpct

なぜスタディサプリは破壊的なのか?

http://komugi.jp/?p=313

インフォグラフィックで見る、「スタディサプリ」の軌跡

https://newspicks.com/news/1433637/body/

ニンゲンラボとは?

デジタルの力でニンゲンの生活がどんどん進化していく。変わっていく行動様式と、変わらない人間の根源的欲求。多様化していくライフスタイルと、多層化していくコミュニケーション。
企業に、顧客視点=ニンゲン視点がより一層求められる中、生活者の姿はだんだんと見えにくくなっています。
デジタルを通じて、ユーザーエクスペリエンスを作り続けてきたアイ・エム・ジェイだからこそ、デジタルを通じて変革・進化するニンゲンの「今」と「未来」を研究していきます。