Blog - Shelly Palmerの記事をIMJのオウンドメディアであるBACKYARDで翻訳・配信していきます。ぜひよろしくお願いします。ちなみに文中の視点や意見はShelly Palmer氏や、それぞれの筆者のものであり、IMJのものでないことを明記させていただきます。

便利なはずのツールが成果を妨げることも

WYSIWYG (コンピュータの印刷などの出力レビュー画面) ツールは素晴らしい!それは出力イメージを完璧に再現してくれる、ただし相手のコンピュータや出力機器環境が全く同じ場合だが。プレビューモードも素晴らしい!それはあなたの作品が相手にどう見え、聞こえるか最高の場合を教えてくれる。しかし、それらは大きな松葉杖のように、あなたの創造性・クリエイティビティを大きく奪っているのである。

創造性を制限することは予算管理上は必要かもしれない、たまにはビジネス上でも機能するだろう。しかし、私は人々がまず自由に考え、その後で便利なツール等を使ってそのビジョンを可視化するほうが良いのではないかと思っている。私はこの重要な教訓を1970年代後半のとある涼しい春の夜に得たのである。

 

私がニューヨークの音楽スタジオについたのは真夜中だったが、みんなはすごく忙しくしていた。数名のアシスタント技師がマイクのセッティングをしていたし、ドラムセットのチューニングをしている人もいたしピアノの調律師は皆に疎まれていた。私より前に一人のキャステイング手配師と二人の編曲家がそこにいて、忙しく次の楽曲の録音のための準備をしていたのである。

当時21歳の私は新しいボスであるドン・エリオット(著名なジャズ奏者、CM音楽作曲家)に呼ばれたものの、何をしていいものか分からなかった。私は6週間の経験しかない新人作曲家で、今まで重要な仕事は一切したことが無かったのだから。

 

その仕事はおもしろそうだった。ドンは私にビーチボーイズの“Good Vibrations”をサンキストオレンジソーダのために編曲し、楽器の楽譜パートを書いてほしいと依頼してきたのだ。ドンは何をしていたのかよくわからないが、忙しすぎて新人の私に依頼して来たのだ。

我々はクライアントの要望について数分話し合った。そのままのビーチボーイズではなく2種類のアレンジメントが必要だった。一つはオリジナルに近い編曲で、もう一つは夢の中のシーンに使われるために弦楽器や管楽器だのをふんだんに利用したオーケストラ調に仕立てる必要があったのである。

 

私はこれを聞いて興奮した。自分の得意分野だ。「これで売れっ子CM作曲・編曲家の仲間入りで後に殿堂入りすることになるかも!」

私は記入されていない楽譜をわしづかみにしてスタジオの隅にあるピアノに向かっていった。ドンはそれに気付き私が座りかけたときに「何をしているんだ?」と荒げた声で話しかけてきた。私は今、クライアントの課題やミッションの話をしたばかりで質問の意味が分からずにいたので「私はこのピアノで楽譜のチェックをしようと思っているのですが……」と説明した。

 

ドン: 「今、何をするといった?!」
私: 「えーっと、ピアノに座って……音を確認出来るように……」
ドン: 「もし、鍵盤にちょっとでも触れたら即刻クビだ!」
私: 「エッ!?」

 

ドンはいつになく興奮しており、私に戻ってくるように言った。彼は、なぜ私がピアノでギター中心の曲をチェックするのかを聞かれたので、「私はいつもピアノの前で音符を確認し、編曲したコードなどを演奏して確認しています。そしてすべての楽器が正しい演奏になっているのかをピアノでチェックするのです」と答えた。これは優等生的な答えでドンは私を試しているのだと思い自信満々であった。

 

確かに私は試されていたのであったが、ドンは私の答えを全く気に入らなかった。彼は「シェリー、ピアノはギターか?」と言い私が「いいえ」と答えると「じゃあ、いったい何でギターのパートをピアノで弾いているんだ?それでギターの音色が感じられると思っているのか?」と聞き返すので私は困惑気味に「いいえ」と答えた。

その後にドンはピアノのパート以外をピアノで確認しても意味がない、フルートのパートはフルートで、いやできれば頭の中だけで聞き、書き取る必要があると熱弁したのである。

 

その瞬間に私の人生は変わった。ドンは白い譜面の山と、鉛筆の束、消しゴムと鉛筆削りを彼の目の前の机の上に置き「さあ、さっさと仕事に取り掛かってくれ。譜面に書き写すコピーイストは明け方までに帰りたいと言っている」

私は記憶のある限り音楽を書き続けているが、目の前に人がいる机での作曲は見るのもやるのも初めてだ。そんなことは考えたこともなかったのだが、強迫観念は逆にモチベーションを上げることもあるのである。

 

私は腰掛け、数秒間空白の楽譜を眺めた後、書き始めた。そしてその時に魔法の瞬間が訪れたのである。私は自由になり何を書きたいのか自然で分かり、ピアノが無くても音を構成できて、フルートはフルートに、トランペットはトランペットに、ギターはギターに頭の中で再現できたのである。

しかし問題はそれらが全部組み合わされた時にどんな音になるか、スタジオミュージシャンが弾いた時の音が想像できなかったのである。心配になった私はドンにピアノで演奏して音を確認していいか尋ねると、私を眼鏡越しに覗き込み「いや、ダメだ。楽譜をコピーイストに渡してそこのソファで仮眠を取れ。この曲の収録は昼頃に始めるからそれまでだ」と言ったのである。

 

もちろん私は一睡もできるわけがない、どうなるのか分からずビビりまくっていたのだ。ドンは私がピアノに触っただけでクビにすると言ったので、私の編曲の演奏を聴いた後にどんな反応をするのか気になってしょうがないのである。


そうこうしているうちに昼になった。誰よりも私が驚いた!すべての進行がOKだっただけではなく、ドンがキャスティングしたミュージシャンたちは楽譜……ではなく楽曲を演奏していたのである。これは私の人生の中での大きな転換点であり、それ以降のプロジェクトに対する考え方を根本的に変えることとなった。

 

自分が何かを発想し、それを第三者に伝えられるのであれば、それは実現するのである。もちろん細部にわたって完璧はあり得ないけれども、それに近いものは達成できる。そして、完璧でないものの方がたいていの場合には自分が今まで頼っていた(他人によって作られた一般化された)ツールによってできたものよりもいいのである。

これはもちろん考えたもののすべてがうまくいくということではない。世界中の才能を集めて屑コンテンツを作ることも可能だ。しかし、まずとことん考え、デザインし、作曲をすることがオリジナル性、新鮮さ、ユニークさにどれだけ貢献するかという点を忘れないでほしい。

私はドンに感謝してもしきれないくらいの恩恵を受けている。彼は1984年に亡くなっているのであるが、この教訓は一生忘れることなく、皆が享受できるものとなっている。自分の夢と可能性を信じよう!Thank you Don!

 

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