Blog - Shelly Palmer の記事をIMJのオウンドメディアであるBACKYARD で翻訳・配信していきます。ぜひよろしくお願いします。ちなみに文中の視点や意見はShelly Palmer氏や、それぞれの筆者のものであり、IMJのものでないことを明記させていただきます。

 

 

「これはたった一台のiPhoneに対しての問題ではない」。

アップル社が裁判所の命令に対抗して出した書面:Motion to Vacate Order Compelling Apple Inc. to Assist Agents in Search, and Opposition to Government’s Motion to Compel Assistanceの冒頭部分である。私は何回も目を通して熟読した。皆様にもそのようにすることを勧めたい。

 

この文章は裁判所の命令に対抗する法的書類というよりは、プレスリリースのような文章になっているのだが、その理由はこのような法律(裁判所の命令)に対抗する手段がまだ十分に確立されていないからかもしれない。

また法的な側面とポリシー的な側面の議論も入り交じっているのが興味深い。これは(1)ほとんどの法律が政府目線で作られていることと、(2)感情が高ぶっていることで説明できるだろう。

 

「もしティム・クック(Apple CEO)の子供が誘拐されたら、そのiPhoneデータは5秒もしないうちにFBIの手に渡っているのではないか」と多くのソーシャルメディアサイトには投稿されている。

「端的にいうと、政府はアップル社にセキュリティの低い、片手落ちの製品を作らせたいのである。そのようなプロセスを認めると、犯罪者や海外のスパイにハッキングされる可能性を提供するようなものだ。そして、このようなことが一度米国の政府に提供されると、他国の政府も同じことを要求するのではないか」とアップル社の書面には記されている。

 

アップル社のコメントは的確だ。
「このことはたった一台だけのiPhoneの問題では終わらない」

私が多くの弁護士に聞いたところ、ほとんどの人が「このアップルとFBIの問題は最高裁判所まで争われるだろう」という意見であった。
その場合の問題は、本来最高裁判所は立法府では無く司法であるのに、今回の裁判では結果的にポリシーと法律を決めてしまう立法府の権限も持つことになる

これは本来であれば立法府である議会の仕事であり、米議会できちんと議論して判断されるべきである。デジタル社会に生きる市民にとって、セキュリティとプライバシーの境界を巡る争いは、我々の時代の最も重要な問題の一つであるからだ。

iPhoneをハッキングすることは可能なのか?

この際アップルがハッキング出来るか否かの議論はいったん置いておこう。このiPhone 5Cのデータを抜き取ることは、アップルを含めていくつかの組織で実施可能だ。

私の良き友人で、退役軍人であるジョン・フェンゼルが教えてくれたのは「NSA(アメリカ国家安全保障局)は間違いなくiPhoneの暗号を破ることができる。それができないということは、重大なセキュリティ問題があるということを意味していて、NSAはすぐさまその対応に追われることになるだろう」という事である。つまり、アップルにハッキングができるのであれば、NSAにもジョン・マカフィー氏にも可能だということだ。

セキュリティとプライバシーのバランス

我々のデジタル生活を考えてみよう。1日150回以上スマートフォンをチェックし、クラウド上に膨大な量のデータを蓄積し(実際はクラウドというものはなく誰かのコンピュータなのだが)、我々の重要なデータのほぼすべて、納税番号、社会保障番号、クレジットカード情報、住所や連絡先、財務データ、病歴、趣味嗜好、利用しているアプリやソフト、購入したコンテンツなど全ての情報がデジタル化され蓄積されているので、「セキュリティとプライバシーのバランスをどうするか」という視点が大変重要なのはお分かりいただけると思う。

情報の価値とは?

コーネル大学ロースクールの法学研究所によると、合衆国憲法修正第4条は当初、『個人のプライバシーは個人に帰属し、政府による調査や没収の対象外』であった。

それは不当な逮捕から身を守り、捜査令状に関する法律の基にもなっている。“ストップ・アンド・フリスク(通行人を呼び止めて所持品検査を行うこと)”や保安検査、盗聴、監視などの法律、他にも多くの刑法やプライバシー法に関する多くの事例の根拠となっているのである。

従ってアップルがたとえiOSのセキュリティを危うくするソフトウェアを自主的に作ったとしても、それは「法律の下」で合法的に使われなければならない。それほどに憲法修正4条の条項は神聖であり、アップルの主張もそれに沿ったものであるといえよう

 

私は友人であるジェーン・ローズ・ウルフ氏(FBIのテロリズム危機管理担当)に本件に関して「なぜFBIがこの特定のiPhoneを今選択したのか」聞いてみたのであるが、係争中であり答えられないとのことであった。
ただし、「通信記録(電話やメール等)によって得られた証拠は重視される。そのような情報は特定の組織の幹部に繋がるかもしれない。またその情報により、証言者、共謀者、首謀者や影響を受けている者を特定できるかもしれない。コミュニケーションを把握することが犯罪やテロリズムを理解し、非道な行為を阻止し、犯罪者を明らかにする鍵である」ということだ。

 

確かに犯罪者を捕まえるために通信を傍受することは重要かもしれない。しかしなぜそれをiPhoneから取得しなければならないのか? 「メタアメリカ:全米に存在する膨大なデータ」からは取得できないのか? 目には見えないけれどもしっかりと私たちのデジタル生活を支えてくれている巨大デジタルインフラからも取得できないのだろうか?

アップルに強制させることの危険性

この話には別の見方もある。それは、あなたも、私も、ティム・クックも、FBIも、判事も知らない闇の世界である。すなわち、国家機関と犯罪者たちだけが私たちの個人情報にアクセスできるようになったとしたらどうなるのだろうか。

ジェーンは「それによって将来はどう変わってゆくのか?」と聞き返してきた。
そこにはとんでもなくひどい未来が想像できる。現在はアップルとNSAと数名のハッカー以外はiPhoneをハッキングすることができない。そこにアップルが“裏口”を造ったらそのソフト情報が世の中に出ていき、大規模な漏えいが起こるかもしれないのである。その規模は一般の想像をはるかに超えるだろう。

 

その悪夢は一日にして起こるわけではないが、国家や法執行機関は、ゆっくりと、予期せぬところまで、我々のデジタルの自由(個人データの保管される場所)を削っていくことになるであろう。
そのシナリオでは通常の市民は、常に100パーセントのリスクにさらされ、“犯罪者たち”は地下に潜っていて、見つけることもできなくなるだろう。その“犯罪者たち”とは、生身の人間だけではなく、機械学習アルゴリズムなども含むからである。

 

まるでオーウェルの描いた世界のような最悪のシナリオを想像した時に、そのインパクトが分かるのではないかと思う。つまり、鍵の無い透明な家に住んでいて、トイレや浴室までも丸見えになってしまうようなことが、デジタルの世界で次々と起きるのである。

自分の将来は自分で決めよう

それではアップル vs FBI論争のもたらす、最も重要で、時流に乗った影響について考えてみよう。

あなたの個人としての対応に関してだ。これは仮説の例題ではなく、今現実に起きていることだ。あなたが決めなくてはいけないのは、米議会にどう動いてほしいかという事だ。どのような法律を作ってもらいたいのか? そして、米国においてデジタル市民であるということには、どんな意味があるのか?

ここまで読めばこの議論を、誰と、どのように、どの視点ですればよいか分からないということに気付くだろう。
私のお勧めはみんなとするべきであるという事である。これは技術的な話ではなく、その人がハッキングの能力やデータの見識があるかないかは関係ありません。それは「我々はセキュリティとプライバシーのバランスをどのように取るべきか?」という現実的な問題です。
このことは、私たちにとって今最も重要な問題の一つであるだけでなく、後世の人々のためにも、私たちがいま活発に議論しなくてはならない問題なのです。

 

このコンテンツは、米SLP Productions, Inc. dba/Palmer Advanced Mediaの許諾を受けて株式会社アイ・エム・ジェイが配信しています。Copyright SLP Productions, Inc. dba/Palmer Advanced Media, IMJ Corporation All rights reserved 引用元