皆さんこんにちは、株式会社アイ・エム・ジェイ(IMJ) CMOの江端浩人です。IMJは米国で先端IT/Adtech情報を配信しているShelly Palmer氏と独占契約を結び、日本での記事と映像配信を行ないます。ちなみに文中の視点や意見はShelly Palmer氏や、それぞれの筆者のものであり、IMJのものでないことを明記させていただきます。
サムスンは、Galaxy Note7の熱暴走問題(爆発と火災)の原因を明らかにするために行った、4つの広範な調査の結果を発表した。結論としては、元々のNote7に取り付けられていたバッテリーには設計上の欠陥があったことや、交換用のバッテリーにも、製造上の欠陥(別のサプライヤーが供給)があったということ、そして、それ以外にもいくつかの重要な問題があったとされている。これは後述するが、革新的な組織にて起こりがちな管理上の欠陥が指摘されている。
技術革新か、死か!
最近の消費者が、各メーカーの主力スマートフォンに期待しているのは、超高速の最先端のプロセッサーの搭載、薄くてベゼルが細くて完全防水、大きく明るい高精細の画面、それに誘導充電機能を備えた長寿命バッテリーを搭載していることだという。それらが全て備わっていて初めて、他の製品と差別化されたハイエンドの製品であると認められるのだ。サムスン、アップル、そして、それ以外の全てのモバイルメーカーは、強烈な技術革新へのプレッシャーにさらされている。革新か、死か! それだけのことだ。
だから、サムスンがバッテリーメーカーに、iPhoneや他のAndroidベースのどの製品よりも長持ちする、世界トップレベルの超小型で超強力なバッテリーを作るように依頼したと聞いても驚く人はいないだろう。
しかしこの実現には、リチウムイオン電池技術の能力を限界まで押し上げることを必要とした。長年にわたる、イオン電池の製造プロトコルとプロセスも変更しなければならなかったのである。そして、何十億個もの電池を仕様通りに納品してきた2社の信頼できるバッテリー供給業者は、Note7の為に無理を強いられることになったのだ。一体、どこに問題があったのだろうか?
その事情背景
Galaxy Note7が2016年の8月中旬にリリースされた時点で、Note7はサムスンがこれまでに作った最高のハンドヘルドデバイスだった。残念なことに、リリースして間もなく、Note7が爆発したり、発火するという報告が寄せられた。サムスンはすぐにリコールをし、交換用のNote7を市場に出した。重要なのは、交換用のNote7のロットの中に、別のバッテリサプライヤー(サプライヤーB)によって設計され、製造されたバッテリーが搭載されていたものが含まれていたことだ。
交換後のNote7が出荷されだしてしばらくすると、信じられないことに爆発したり、発火するという事象が再び報告されだした。これらは、サプライヤーBの製造する新しいバッテリーを搭載した新しいNote7であった。これに対応して米連邦航空局(FAA)は全ての航空機へのGalaxy Note7デバイスの持ち込みを禁止し、サムスンは広報上の悪夢を見ることになったのだ。
サムスンの対応
サムスンのこの問題への初期対応については、他の媒体で十分に文書化されているので、ここでは総括しない。ただ、サムスンは全社を挙げて、全てのNote7を回収することに尽力したことは言っておきたい。そして経営陣は何をしたのか? 何が起こったのかを突き止め、どうして上手くいかなかったのかを知るために、大規模な調査を開始した。そして、それは今日に至る。
バッテリーの調査
1. サムスンは、ケンブリッジ大学の化学教授であるクレア・グレイ博士(Dr. Clare Gray)を含む業界の著名人からなる電池諮問委員会を招集した。そこにはマサチューセッツ工科大学の材料科学・材料工学教授のガーブランド・セダー博士(Dr. Gerbrand Ceder)、スタンフォード大学の材料科学・材料工学教授であるイ・ツェイ博士(Dr. Yi Cui)も含まれている。
2. サムスンは、数万台のNote7と2社のバッテリー供給業者からのバッテリーをテストするための最新鋭の施設を建設した。そして両方のサプライヤーが製造したバッテリーの不具合を再現した。
3. サムスンはNote7の不具合解析を行うために第三者安全科学機関、UL社を雇った。その結果、サプライヤーAのバッテリーの設計上の欠陥と、サプライヤーBのバッテリーの製造上の欠陥を発見した。(リチウムイオンバッテリーの動作を知りたい場合、『爆発するスマートフォン』の記事を読めばすぐに概要を掴むことができる)。
4. サムスンは、Note7の失敗の根本原因分析を行うためにエンジニアリング専門のコンサルティング会社、Exponent社を雇った。Exponent社は、サプライヤーAのバッテリーに同じく設計上の欠陥、サプライヤーBのバッテリーに同じく製造上の欠陥があるのを明らかにした。
5. サムスンは世界的な技術、安全、証明サービスの第三者機関、TÜV Rheinland社を雇って、サムスンの物流(ロジスティクス)と組み立て(アセンブリ)に何かしらの問題があったのか、また、その過程でデバイスが故障する可能性があったのかどうかを調査した。
サムスンがこれらのレポートから読み取るもの
UL社とExponent社の両者のスマホ熱暴走(爆発と火災)の主な原因は、バッテリーの設計と製造上の技術的問題(一部のプロセスも原因)であると結論づけた。TÜV Rheinland社による調査では、サムスンの物流プロセスは調査されたが、バッテリー設計プロセスやその他の仕様プロトコルは調査されていない。だが、この調査がサムスンによって自主的に実施されたものだということは、良いニュースと言えるだろう。
サムスンによる電池安全チェック8項目
以下が8項目のチェックポイントである。
1) 耐久性チェック
2) 視認チェック
3) X線チェック
4) 充電・放電チェック
5) 総揮発性有機化合物(TVOC)チェック
6) 解体チェック
7) 加重劣化チェック
8) 開回路電圧(OVC)チェック
並外れた製品イノベーションを実施するなら、 並外れたプロセスイノベーションが必要
このサムスンが学んだ教訓は、あなたのビジネスにも適用できる。これらの調査の結果、サムスンはバッテリー設計とテストの包括的なプロセスを開発したといえる。これは、通常のスマホ用バッテリー開発に期待される水準をはるかに超えているが、並外れた製品イノベーションを実施するなら、同様のプロセスイノベーションが必要なのだ。
プロセスこそが製品です
イノベーションの文化に取り組んでいる場合や、市場の圧力によって製品を継続的に改善しなければならない場合には、ビジネスプロセスを革新し、継続的に改善していく必要がある。
使用部品の選定、発注、品質管理、製品テスト、消費者テスト、そして改訂は、どのように行われているのか? (各サプライヤーは、あなたの仕事を獲得するために戦うだけでなく、それを維持するためにも戦うが故に)10年前から存在しているプロセスで陳腐化しているものはないだろうか? 今日のビジネスの仕方に合わせて、プロセスも見直した方がいいのではないか?
製品やサービスが何であっても、パートナーシップやアウトソーシング、ベンダー管理の考え方は、これまで以上に重要性を増している。サムスンが、時間と予算と仕様を常に守ってくれていた2社の異なるサプライヤーと「時間を掛けて作り上げてきた」プロセスを信頼したことは正しかったのだろうか? サムスンはそこにリスクが含まれていることに気付くべきだったのだろうか?
私は、この質問に答えるのに十分な情報を持ってはいない。だが、私たちがそれぞれ自分の会社で使用しているプロセスについて考えるためには、十分なヒントがあると思っている。
ありがとう、サムスン! あなたたちは、急激な変革に対応する優秀な管理があれば、(サムスンほどの大きなビジネス規模であっても)その組織をマネジメントすることができるということを示してくれた。そして、あらゆるビジネスのあらゆる側面において、「プロセスこそが製品である」と、私たちに教えてくれたのだ。
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