• 吉田 裕介氏
    【ソニーマーケティング株式会社】
    ネットワークサービス部
    『ソニー アクションカム』SNS担当者



     
  • 部坂 純子
    【株式会社アイ・エム・ジェイ】
    Marketing Analytics & Science本部  Customer Insight Lead事業部
    チーフコンサルタント

Facebookを通じて『アクションカメラ』ファンと潜在顧客をつなぐ、ソニーの試み。

部坂:はじめに、貴社とご自身について教えていただけますでしょうか?

吉田:ソニーマーケティングは、カスタマーマーケティングやウェブマーケティングを通じて、お客様にソニーのプロダクトやサービスを提供する会社です。私自身はネットワークサービス部に在籍し、2014年より『ソニー アクションカム』の動画を通じたSNS活用プロジェクトに参加しています。

部坂:では、今回の本題でもあります『ソニー アクションカム』のプロモーションで、2014年にSNSの活用に注目されたいきさつを教えていただけますか?

吉田:SNSを活用したプロモーションを始めようとしたきっかけは、『ソニー アクションカム』のマーケティング担当から、私たちが運用する『α(アルファ)café』のアクションカム版を作りたいという相談を受けたことに始まります。『α café』というのはソニーのデジタル一眼カメラ『α』のユーザーによる写真投稿&コミュニティサイトです。サイト上でファン同士が集まってコミュニティを作り、サークル活動や写真展が行われています。『ソニー アクションカム』の新規顧客を獲得するために、『α café』の動画版を作りたいと言われました。動画は写真と比べると、編集の技術や動画特有の知識が必要とされるため作成が難しく、投稿の品質と量が担保できるか懸念がありました。また「動画が集まるのか」「それによる新規顧客を獲得できるのか」相談を受けたときは不安でしたね。「この企画だとうまくいかないかもしれない」と直感的に察知し、目的は何ですか?ビジネス上の課題は何ですか?どんな販売戦略なんですか?と担当者に詰め寄りました(笑)。

部坂:そこからFacebookの活用に対して具体的な検討に入られたんですね?

吉田:この製品の新規顧客を獲得するためには、機能性よりも趣味や嗜好という観点から訴求し、認知してもらうことが先決でした。そう考えた時に、Facebookを通じてこれまでソニーがコミュニケーションできていなかったスポーツ愛好層など、一定の趣味嗜好を強く持ったトライブ的な人たちへアプローチすることが思い浮かびました。IMJさんにも事前に相談すると「趣味嗜好を反映したUGC動画」と「趣味嗜好に沿って訴求できるプラットフォームとしてのFacebook」の相性がよいものだとわかったので、自信を持って社内でも提案できました。

部坂:SNSアカウントを作ることは比較的容易にできますが、立ち上げただけで目的やターゲット設定や投稿内容などを曖昧にしたままで始動すると、途中で運用に行き詰まったり、社内で活用意義を説得できなくなり失敗するケースも多く、悩んでいるお客様も多くいらっしゃいます。事前にご相談をいただいたときに、その辺りのお話しもさせていただきましたね。

吉田:SNSアカウントのテーマはユーザー動画が集まる場所、その動画を見たユーザーが楽しむ場所に設定しましたが、ターゲットの設定には苦労しました。スキーや自転車、バイクを趣味にする30代後半から40代前半をターゲットにしていましたが、明確な根拠があったわけではありません。当時はターゲティングの精度もわかっておらず、また、「アクションカメラ」という製品がどれだけ新規顧客に受け入れられるか知りたかったということもあり、戦略的にSNSアカウントを運用するためにIMJさんに相談しました。

部坂:今回、弊社が本格的な戦略支援に入らせていただく前に、社内での意思統一に苦労されていたのが印象的でした。そのあたりのことについて詳しく教えていただけますか?

吉田:そうですね。ソニーのブランドガイドラインとの調整なども含め、時間がかかりました。管理部門からは「sony.jpの公式アカウントがあるから新規のアカウントは必要ないんじゃない? 公式アカウントで月に1回くらい投稿してあげるから」と言われましたが、「プロダクト訴求をする場所で、知名度のある『ブラビア』や『ウォークマン』と並列に紹介しても、新しいファンの獲得はできません!」と断りました(笑)。既存のソニーファンとは異なる層への認知拡大のため、最低週に2回は見かけるくらいになっていないと、新しくできたアクションカメラというジャンル・製品は認知してもらえない、またプロダクト訴求ではなく、使用した顧客の体験訴求でないと、好きになってもらえないと思ったからです。
マーケティング部長や社長への社内プレゼンでは、「本当にユーザー投稿動画は集まるの?」という率直な意見もありました。「週に2本の動画を発信するとなると、年に100本の動画が必要」「50本の投稿のうち20%採用できれば集客はクリア」と事前に算出し、実際にテストマーケティングをかねて動画投稿キャンペーンを行ったところ、100本以上の動画が集まりました。テスト前は内心不安でしたが「絶対に集まります!」と自信を持ってプレゼンできました。

顧客視点のペルソナ作成を通じて「共通のお客様像」が誕生

吉田:私たちがIMJさんに相談した際に設定していたターゲットのペルソナは、「週末は自転車で出かける人」、「自転車に長時間乗る人」という程度の曖昧なものでしたが、IMJさんが描いてくれたペルソナは友人との遊び方や性格、嗜好などプロフィールのステータスが明確。社内でも「お客様の声を拾うにはアンケートをやるしかないな」と考えていましたが、そちらもさまざまな手法でまとめていただいたので説得力が違いました。

部坂:そうですね。はじめに相談を受けた時に、マーケティング担当者様から商品のマーケティングターゲット群はお伺いしましたが、大きいくくりだったためSNSのアプローチではもっと詳細化する必要があると感じました。よりリアルなターゲット像に設定し直し、SNSでの投稿テーマや取り上げる動画の内容、言い回し一つにまでこだわる必要があるからです。まずは、ブログやSNSからアクションユーザーのニーズを拾ったり、社内で調査を行い、顧客視点から明確なペルソナを描くことから始めました。
IMJのSNS活用コンサルティングサービスが他社と一線を画している点は、ターゲティング設定に加えカスタマージャーニーを用いたアプローチ方法にあります。今回は最終的に4種類のペルソナが誕生し、SNSアカウントを通じて、誰に、何を、どのようにアプローチするのかをまとめましたが、顧客との接点を根本から見つめ直すために、ファクトやお客様の声をベースにしたカスタマージャーニーを描きました。

吉田カスタマージャーニーから浮かび上がってきたのは、顧客との接点の少なさです。つまり、販売前のタッチポイントである、製品を体験してもらう人を増やすことが課題でした。課題を解消するためにどんなアプローチが必要かを模索するために、IMJさんが主催する部門横断型ワークショップにも参加しました。マーケティング部、ネットワークサービス部の同僚と一緒に参加しましたが、部署の垣根を超えてターゲットの共通認識化ができたことはその後のプロジェクトを進める上で大きかったです。社内の打ち合わせでも「ペルソナの◯◯さんのことだよね」「このペルソナにはこういう表現が必要だよね」というように、プロダクト視点ではなく顧客視点の議論が活発になりました。
ソーシャルアカウントを立ち上げたはいいけど、途中で「あれもこれも発信しちゃえ」という感じで方針がずれてしまうのは避けたいと考えていましたが、ワークショップに参加したことで、運用上の課題が起こったり、周りから反対が上がったりした場合でも「このソーシャルアカウントではこれをやる!」という指針を他部署とも共有することができました。

SNSの役割は「売上拡大」じゃない!「認知拡大」のためのメディア

部坂:カスタマージャーニーの設計やワークショップと、SNS立ち上げに少しでも貢献できてよかったと思ってます。実際に運用を始められていかがですか?

吉田:Facebookを通じた『ソニー アクションカム』のSNS活用は、KPIを1年3ヶ月でFacebookファン30,000人を目標にしていましたが、10ヶ月でクリア。最終的に、目標対比140%、50,000人近くのファンを獲得することができました。現在も週に2回、投稿された動画を発信していて、累計600本以上もの動画を投稿いただく人気アカウントになりました。
SNSアカウントを立ち上げて3年目ですが、今も継続的にお客様から動画の投稿があり、なかにはリピートしてくれる方も。投稿した方がSNS上で、自分の動画が紹介されたと盛り上がっているのを見るのは嬉しいですね。

部坂:今回の取り組みを通じて、御社内で何か変化はありましたか?

吉田『ソニー アクションカム』でのSNS活用がきっかけで、他のブランドでもSNS上でのコミュニケーション活動を積極的に展開するようになりました。また、取り組みが社内報にも取り上げられ、他部署からのSNS活用の相談も増えましたね。現在は『α Universe』『First Flight』といったソニーブランドのFacebook、Twitter、InstagramなどのSNS運営も手がけています。

部坂:SNSの活用は購買にどれだけ繋がっているかなどの直接的な効果を求められ、社内に理解させることが難しいというお客様もいますが、吉田様の場合はいかがですか?

吉田:確かにそうした声はありますね。ただ、SNSには認知拡大という役割があって、売上に直接つながるものではないと考えています。認知させることをあきらめて、購買を優先させることもできますが、結局認知しているお客様のパイが少なくなり、最終的に先細りすることが目に見えています。なかなか経営層に理解してもらうことは難しいのですが、IMJさんが運用前の社内調整用の資料作りまでをサポートしてくれる安心感がありました。

部坂:御社のSNS活用が成功したカギは、ペルソナ作成やカスタマージャーニー作成以上に、吉田様の周囲への働きかけを通じて、共通認識の輪が隅々まで広がったことにあるのかもしれませんね。

吉田:IMJさんと一緒に描いたターゲット像やSNS運用の指針をもとに、今後も『ソニー アクションカム』へのタッチポイントを増やしながら、これまで以上にアクティブに楽しんでくれるファンを作っていきたいです。