谷古宇 浩司(やこう・こうじ) 

 主な経歴 

  • アイティメディア株式会社:記者、編集者 
    「@IT」「ITmedia エンタープライズ」「ITmedia マーケティング」編集者、編集長&事業統括
     
  • 株式会社インフォバーン:エグゼクティブ・プロデューサー
    「DIGIDAY[日本版]」「BUSINESS INSIDER JAPAN」創刊編集長&事業統括 
     
  • 株式会社はてな:事業統括&統括編集長
     
  • 2019年8月株式会社IMJに入社 ビジネスアーキテクト本部に所属 

―実は、谷古宇さんの職歴が記載された入社挨拶メールが流れてきた際に、社内がけっこうザワつきまして(笑)。BACKYARD編集部をはじめとして「おお、何だかすごい人が来たぞ!」と。社員も興味津々な状態ですので、ぜひよろしくお願いします。 

谷:お騒がせして申し訳ありません(笑)。 

“消去法”でIT領域の編集者の道へ

-まず、これまでの経歴について伺います。IT系メディアの記者からキャリアをスタートされていますが、そもそもなぜIT領域の編集者の道に進まれたのですか? 

谷:それは……、一言で言えば、消去法ですね。大学については、「本が好き」「文章を書くのが楽しい」と言ったシンプルな理由で文学部を受験したのですが、就職を考える際、例えば文章を書くのは好きだけど小説家は生活が大変そうだなとか、出版社でゴシップ誌に配属されたら困るなとか(笑)、政治記者はハードそうだなとか。色々考えてみたのですが、自分が「そういう場所」で働くイメージが湧かなかった。今から考えると、単に社会認識が圧倒的に乏しかっただけなんですが。

あと、もうひとつ、時代の流れが重なったことがあります。1996年ぐらいですが、ちょうどパソコンの普及が進み始め、インターネットが社会に与える潜在的な可能性について、メディアで取り上げられ始めた時期でした。小学生の頃からずっとコンピュータに興味があった自分としては、「この世界は面白いな」と改めて感じていました。インターネットは情報流通の形を確実に変えていくだろう。それは私たちの経済活動に大きな影響を与えるし、企業の姿も劇的に変わっていくに違いない。そんなワクワクする予感に満ちた時代だったんですね。そういう意味で、ITの領域でジャーナリズムをやるって、自分にとっては極めてまっとうで健全なことだと思えました。 

-なるほど。ちなみに、本が好きということで読書少年だったのかな? と勝手にイメージしていたのですが、パソコン少年でもあったんですね! 

谷:もちろん本を読むことは好きだったのですが、昔からコンピュータにも関心がありました。小学生の時に任天堂が「ファミリーベーシック」という、BASIC言語を使用して簡易プログラミングができるキットを発売しまして、それでゲームのプログラムを打ち込んで遊んだり。当時はNECのPC-8801 mkII SRが登場した頃で、「マイコンBASICマガジン」(電波新聞社)で紹介される最新ゲームのカタログを見ながら、どうすればこのパソコン(PC-8801 mkII SR)が手に入るのか、わりと真剣に考えたりしていました。周りの友人たちもアップルのMacintoshやシャープのX68000をどこからか手に入れたりしていて、まあ、だいたいゲームしかしていないんですけど、ともあれ、10代は「珍しくて新しいおもちゃ」としてのパーソナルコンピュータが周辺で目につくようになり、それらの機械を通じて技術革新に触れ、やたらと興奮していました。 

-そうだったんですね。少し親近感が湧いてきました(笑)。 

編集者時代にインストールされた「経営者視点」

-さて、少しずつ本題に近づいていきたいのですが、前職の「はてな」へ転職されたときのインタビューでは、編集という枠を超え、組織づくりや人材教育に興味が出てきたと語っていました

谷:はい。アイティメディアには、合併前のアットマーク・アイティを入れると、10年以上在籍しましたが、私が入社した当時は「ほぼ出来たばかりの企業」(アイティメディアはソフトバンクから分社)だったので、人材採用や評価システムといった会社としての仕組みをそれこそ、一から作っていかなければいけない状況だったと思います。 

20代、30代とデジタルメディアの編集者として職業経験を積む中で、自分に求められる役割も徐々に変化し、いわゆる本業である“取材して記事を書く”“メディアをグロースさせる”といった業務以外に、カオスな状態の会社を「ちゃんとした会社」に発展させていくためのさまざまな仕事(の一端)を少しずつ担うようにもなっていきました。いつの間にかそういった仕事が面白くなってきて、関心を持つようになりました。 

―より会社の根本的な業務に興味が出てきた、という感じでしょうか。

谷:そうですね、あとは当時の取材対象が主に企業の経営層でしたので、自分自身の仕事に対する考え方も影響されていったのではないでしょうか。 

―ああ、なるほど! 編集者として話を聞くうちに、経営者的な考えがインストールされていった、と。 

谷:毎日勉強している感じでした。経営者や事業責任者の方々に話を伺って、自分の中で咀嚼して記事を書いて、何らかのオピニオンとしてまとめる作業をしていく。すると、そのうち、話を聞いているだけでは飽き足らず、自分でも事業サイドに行ってみたい、と思い始めていました。 

―その辺りの気持ちの変化は今回IMJに転職を決めた流れにもつながるのかな、と思いましたが?  

谷:はい、つながっていると思います。特に2015年頃から業務の主軸が、編集者というより、事業会社のデジタル戦略をサポートすることが多くなりました。今後はサポートだけではなく、プランニングしたことがきちんと実行されるところまで自分の目で見ていきたい、というのがイメージとしてあります。

―ふむふむ。「どうしてIMJに?」という疑問がだんだん解消されてきました。

IMJのアクセンチュアグループ入りは「論理的に正しい」と思っていた

―経営やビジネスデザインの企業サポートに関しては、現在、さまざまなプレイヤーがサービスを提供していると思いますが、その中でIMJを選んだ決め手は何だったのでしょうか? 

谷: 2016年にIMJがアクセンチュアグループに入ったことが大きいですね。その数年前から、アクセンチュアだけではなく、例えばデロイト トーマツ コンサルティングがデジタルエージェンシー(Deloitte Digital)を作るなど、デジタルマーケティング業界で大きな動きが出てきていました。「ITmedia」や「DIGIDAY[日本版]」「BUSINESS INSIDER JAPAN」というデジタルメディアに編集者として身を置きながら、ビジネスの大きなトレンドとして、コンサルティング会社とデジタルエージェンシーの合従連衡を見ていて、そのビジネス的な流れは「論理的に正しい帰結」だな、と感じていました。ただ、当時はあくまで“いち観察者”としての立ち位置でしたので、実態を把握していたわけではありませんでしたが。 

他方、IT業界のビジネストレンドも、基幹システム構築を契機としたビジネスプロセス改革によるコスト削減というステージから、さまざまなフロント業務の自動化による改善、例えば、マーケティングや営業などのプロセスの刷新へと移り変わっている状況でした。アクセンチュアにとっては、これまでのシステムコンサルティングの知見を応用して、新しい領域(デジタルマーケティング領域)に進出していけるタイミングでもあったと思います。 

そういう意味で、デジタルマーケティングの領域に強みのある企業=IMJとパートナーシップを結び、アクセンチュア全体として、クリエイティブエージェンシーとしての新しい方向性を打ち出すことは、アクセンチュアグループ全体の戦略としてとても正しい方向性だなと。戦略コンサルティングからITインフラ領域のテクノロジーの実装、そして、企業のフロント業務であるマーケティング~営業領域の戦略策定から具体的なソリューション提案、開発まで……。アクセンチュアの動きは、企業のデジタル戦略をトータルにサポートする体制として、1つの理想形に近いのではとの印象があったのは事実です。そういう意味で、今回の転職を考えたとき、ビジネスデザインを本格的にやっていくとしたら、アクセンチュア インタラクティブ=IMJは、非常に魅力的な場所だなと感じた次第です。 

物事の核心をつかむ力。編集者視点でビジネスをデザインする

―編集とビジネスデザインって、一見すると距離があるように思われがちですが、物事を整理するプロセス自体はかなり近いのではと感じています。その辺りはいかがでしょうか? 

谷:はい。編集者の持つコアなスキルは、ポータブルスキルとして実は有用性が高いものだと思っています。一言で表現すると、「情報を整理する力」。色々な情報をどんな角度で見るか。そして、どうアウトプットするか。そのスキルはどんな仕事にも応用できるものではないかと思います。

ビジネスデザインを考えるときにとても重要なのが、自分たちは何をビジネスとしてやりたいのか、社会にどういう貢献をしていきたいのか、収益を上げていくには何をすればいいのか……そんな目に見えない物事の核心をつかんで整理し、具現化していくことです。 

 例えば、才能あるタレントを集め、チームを作り、具体的なアクションを作っていく。目に見えないものを少しずつ具現化していく。そのためのコアなスキルは、自分の場合、やはり編集者としての職務経験で培われたものです。

―「物事の核心をつかむ力」ですね。情報設計やアウトプット力は我々IMJの得意分野でもあるのですが、色んな角度から見て、核心は何なのか見極めていく編集者のようなスキルも今後より重要になっていく気がします。 

「見えない壁」を取り払い、新しいシナジーを生み出していきたい

―最後にIMJでの今後の野望や展望などあればぜひ聞かせてください。

谷:「編集者としてのバックグラウンドを活かしながら、アクセンチュア インタラクティブ=IMJとして新しいことをやってほしい――」。そんな周囲の期待というかプレッシャーを感じますが、自分としては、まずは目の前の仕事を着実にこなすことに集中しています。本当にもう、分からないことだらけですし、ルールの分からないゲームに参加している感じです。 

 一方で、新参者であるからこそ持てる視点というのも、現時点では貴重だと考えています。入社して2か月なのですが、アクセンチュアのグループ内にはまだ会社間の「見えない壁」が存在しているのを感じる瞬間があります。グループにはさまざまなタレントが集まっていますので、それぞれのタレントがより良いシナジーを生み出すためには、そういった「壁」を取り払っていく必要があるし、そのために自分ができることは何なのかを模索している日々でもあります。IMJの中だけで閉じて仕事をしていくのではなく、アクセンチュアグループとして、各々の強みを活かし世の中にどんなインパクトを与えていけるのかという視点を持ち続けることが大切なのでしょうね。 

―そうですね。会社として新しいチャレンジの渦中にいる中、自分で範囲を決めてしまっているなぁと気づき反省する場面は多くありますので、谷古宇さんのようなフラットな視点を持つ方はとても重要だと感じます。 
 
一方で、新しいスキルを持ったニュータレントに甘える形ではなく、私たちも自身のケイパビリティを伸ばすべく日々頑張っていかねば、と改めて思いました。本日は貴重なお話、ありがとうございました! 

※インタビュー後は撮影で訪れた社内のライブラリーに並ぶ漫画のタイトルを眺めながら、谷古宇さんと取材班で漫画談義で盛り上がりました! 

あだち充先生の『タッチ』を見つけて、おもわず笑顔。