オンラインデータとオフラインデータの融合による体験価値の向上
スピーカー: 凸版印刷株式会社 メディア事業推進本部 主任 兼 株式会社マピオン 新事業推進部 マネージャー 森谷 尚平氏
ターゲティング広告の市場は2018年に1兆円を突破し、オーディエンスデータを活用したデジタルマーケティングは急成長を続けている状況です。昨今のData Management Platform(以下DMP)界隈ではオンラインの行動データだけではなく、オフラインの行動データとの掛け合わせでマーケティング活動を行うのがトレンドとなっています。
例えば、Webアプリから取得できるユーザー情報や行動データ(オンラインデータ)と、天気情報や店舗位置などの地図情報(オフラインデータ)を掛け合わせることで、雨が降っている地域の特定の顧客に向けて広告を配信するなど、オンラインデータとオフラインデータの融合がより高い顧客体験を創出できる一例となります。
凸版印刷が提供する『Shufoo!』 はユーザーが自身の行動エリアを登録すると毎日チラシが届くアプリです。 *1
『Shufoo!』では、アプリ上でのユーザーの行動や位置情報(オンラインデータ)にオフラインの店舗位置データを掛け合わせることにより、ユーザーの興味関心や、行動範囲を分析し、大手SNS上でターゲティング広告を配信することで、その後広告接触者の来店状況はどうなるのか、という事例が紹介されました。
その結果、下記のような効果が得られました。
1. 「DMPでの分析から選別されたユーザーに対して、ある飲料によく合うお肉を買える店を大手SNSタイムライン上で紹介」することで、広告接触者の8.3%が実際に来店した。
2. 「DMPでの分析から選別されたユーザーに対して、店頭で応募可能なプレゼントキャンペーンを、大手SNSタイムライン上に告知」することで、広告接触者の8.0%が実際に来店した。
このような凸版印刷の取り組みは、オンラインデータ(アプリから得られるユーザー情報や行動データ、興味関心)とオフラインデータ(店舗位置データや天気データ)を掛け合わせることにより、高い体験価値をユーザに提供できる好例です。
近年さまざまなデータ、特に自社外のデータを活用する動きが活発になっています。TDでも「Data Exchange」*2 という画期的な機能を発表しています。
この機能を使って、自社以外のデータやオフラインデータを積極的に活用することで今まで見えてなかった潜在顧客や、潜在ニーズの掘り起こしにつながることもあると感じました。
*1 「Shufoo!」は2019年4月1日で凸版印刷株式会社から、凸版印刷のグループ会社である株式会社ONE COMPATH(旧社名:株式会社マピオン)に事業承継され、ONE COMPATHが運営しています。
*2 「Data Exchange」機能
TDの契約者間でデータの取引が可能となる機能。「CDP導入したいけど、そもそも自社データでは足りない」そんな課題を解決し、多くのデータにより顧客の体験価値をより向上させる機能となっています。
なぜTD CDPを導入するのか?
続いて、株式会社クレディセゾン様の事例が紹介されました。その会社では、『カード会社ならではの正確な情報を強みとしたマーケティングデータ基盤』である自社CDPを2016年に導入することで、データを活用した先進的なマーケティング施策にいち早く取り組んでいました。
そんな企業が、よりマーケティグング施策側へ投入するため、2018年3月よりTDの利用を開始しました。導入背景は以下となります。
【TD導入メリット】
1. 開発コストの低さと実現できる価値の高さ
新しいシステムとの連携を行う場合、都度発生していたシステム間連携開発の負荷がシステム間連携機能により軽減されるなど、TDの機能を利用することで自社のリソースをマーケティング施策側(セグメント設計・開発)に集中することができる。
2. 新規機能の追加やアップデートが自動で行われる
インフラやシステムアップデートなどのメンテナンスはトレジャーデータ社が実施するため、常に最新の環境が維持されている。
さらにシステムに詳しくない運用メンバーでもWebブラウザ上で視覚的にセグメントを作成し、施策の実行が可能となるセグメントビルダー機能により、運用面においてもリソースの改善に大きく貢献を果たしています。
また、カード会社という業種上、堅牢なセキュリティが欲しいという要望をTDの「プライベートコネクト」機能*3 により実現できたこともTD導入の理由の一つでした。
同社では、今後もTDを活用し、ユーザーとのエンゲージメントの強化を目指すとともに、Fintechや高精度ターゲティングソリューションの開発にも取り組んでいくとのことでした。
セキュリティや制約が厳しい金融業界において、アグレッシブなマーケティング施策を生み出していけるのは、堅牢なセキュリティを持つTDだからこそであり、今後セキュリティの厳しい業界でもCDP活用が進んでいくのではと感じました。
*3 「プライベートコネクト」機能
顧客のデータセンターとレジャーデータをVPN接続するセキュリティ機能です。
トレジャーデータ社ではこの「プライベートコネクト」と合わせて、データへのアクセス記録を保持する「監査レポート」を機能として追加し、セキュリティ強化に力を入れています。
リテールのマーケティング基盤変革!結果が出るCDPプロジェクト推進
スピーカー: 株式会社アイ・エム・ジェイ Marketing Platform第2本部 Solution Architect部 システムコンサルタント 岡田 鷹治
PLAZMAで紹介されていたTD導入の成功事例を2件レポートしました。TDの活用は顧客により高い体験価値を提供できるメリットもありますが、ソリューション導入にはさまざまな課題が発生します。
ここからは、今回のイベントで弊社が発表したマルチソリューション導入プロジェクトにおける課題とその乗り越え方について、実際の事例に沿ってご紹介します。
マルチソリューション導入時の課題
お客様の求める価値は、モノからコト、コトからヒトへと変化し、「パーソナライズされた体験価値」へとシフトしてきています。企業はお客様のデータを集め、そのデータをもとに、より適切な場所・タイミングでお客様にあった体験価値を提供することを目指しているのです。
上記のような「パーソナライズされた体感価値」を提供するためには、以下のようなソリューションの導入が強力な味方となります。
・データを集約するCDP(Customer Data Platform)
・お客様を管理するCRM(Customer Relationship Management)
・チャネル配信を管理するMA(Marketing Automation)
・チャネル配信を行う各種ソリューション
企業は全社一丸となって複数ソリューション(マルチソリューション)を導入・活用するプロジェクトを立ち上げていきますが、プロジェクトを進めていく過程では、以下のような課題が発生してきます。
【導入時のよくある課題】
・ステークホルダーが増えて要件がまとまらない
関係する部署が増えていくことで、各部門それぞれの思いが絡み合い、やりたいこと、実現したいことが膨らむことで、要件定義が終わらない。
・設計構築したが施策リリース時期が見えない
ステークホルダー間のコミュニケーション・調整が上手く行かず、設計構築は行ったものの望むデータが集まらず、施策に移せない。
・各種ソリューションを導入したがバラバラに運用されている
必要なシステムは導入したが、各システムの役割が決められず、各部門の思いだけが空回りし、それぞれが分断して運用されている。
IMJでは業種を問わず豊富なマーケティング運用実績があり、クライアントに合わせたプロジェクト進行をご提案することが可能です。ここからは、弊社のプロジェクト進行によって上記の課題を乗り越えた事例をご紹介します。
マルチソリューション導入時の課題解決事例
弊社のクライアントであるリテール企業様はプロジェクトのゴールとして以下を設定していました。
・Web広告費の効率化
(自社ECサイトの行動ログと顧客情報を活用した広告の最適化)
・One to Oneコミュニケーションの実現
(メール/LINE/サイト内レコメンドなどのパーソナライズされたコミュニケーション)
を実現させ、持続的に成果創出を行えるマーケティング基盤を構築する
『クイックWIN・アジャイルPDCA』
プロジェクト開始当初、数多くいるステークホルダーの思いが要件に盛り込まれることで、要件定義が想定より長引くことが懸念されました。そこでプロジェクトコンセプトである『クイックWIN・アジャイルPDCA』を浸透させました。それにより、「まずは施策の実施」という目的に向かってクライアント企業様、弊社共に足並みがそろい、要件や施策リリース時期が明確になりました。
複数システムの連携は、プロジェクトのフェーズを区切ることが課題クリアのための重要なポイントになります。
最初のフェーズ、「まずは施策の実施」を最優先としたフェーズを設定し、システム連携を最低限の要件としました。これにより、各システムで何を行うのか、連携する必要があるのがどこなのかを最小で考えることで、各システムの役割を明確にしました。
こちらのプロジェクトではCDPにTDを使用しており、柔軟性の高い設計・構築が可能なTDだからこそ、『クイックWIN・アジャイルPDCA』を実現できました。具体的には導入済みの処理に影響を与えることなくシステム間連携の追加が可能であるため、フェーズを持ち越してもスムーズにシステム間連携を実装できます。
次のフェーズでは、先行フェーズで既に実施されている施策の強化とその幅を広げるという目標を持ってシステム連携を実装しました。これはまだ現在進行中なのですが、本プロジェクトでは『クイックWIN・アジャイルPDCA』でROIを創出することができており、さらなる成果を目指しています。
ソリューション導入による課題をクリアするためには、部署の垣根を越え、全社一丸となり得る、KPIに合わせたコンセプトの設定と浸透が不可欠であり、かつコンセプトを用いてステークホルダーの協力関係を築くことが、マルチソリューション案件では重要だということが明確になったと感じました。
まとめ
今回のPLAZMAでは、さまざまな業界でのCDPの導入事例が紹介されており、業界問わず、CDP導入が進んでいることを実感しました。
セッションを行なっていた企業ではCDPを導入した後、いかにプロダクトの価値につなげることができるか、特にメール配信などでのCVR向上につながった施策の話など施策成功に直結している事例もあり、TD導入の恩恵を受けた企業が多く存在することを改めて認識しました。
ただし、CDPの活用にはマルチソリューションの導入が不可欠となり、それに伴いさまざまな課題が発生します。課題に対し、プロジェクト全体の指針を提示することでステークホルダー全員の意思の統一を図ったり、プロジェクトのフェーズを区切って連携規模を小さく始めて、順次拡大していくことでCDP導入の難易度を下げることが可能だと考えられます。
TD導入での課題を突破し、メリットをいかに享受できるかにTD導入プロジェクトの成否がかかっていると思います。
今回は一部しかご紹介できませんでしたが、トレジャーデータ社の主催イベント「PLAZMA」はソリューション導入による多くの事例やナレッジが吸収できる場所です。
年間通して開催されており、弊社もたびたび登壇させていただいております。
ご興味ある方はぜひご参加ください。