毎年6月にフランスのカンヌで1週間開かれる世界最大級の規模を誇る広告賞であるカンヌライオンズ。その中で開催される若い人たちを対象としたコンペティションが「ヤングライオンズ」(通称:ヤングカンヌ)です。部門ごとに各国で予選が行われ、各国代表として2名1チームがカンヌ本選に参加。現地で与えられた課題を定められた時間内に作成し、賞が決定されます。
今年は新型コロナウイルスの影響で2020年6月の本選開催が見送られ2021年枠での出場となる、ヤングライオンズのデジタル部門日本代表のお二人にお話を伺いました。
IMJ Planning&Creative本部 ディレクター(2017年入社)
大星 一馬(おおぼし かずま)
IMJ Production&Operation本部 ディレクター(2019年入社)
六郷 勇志(ろくごう ゆうし)
今回受賞された企画がどんな企画なのか教えてください!
大星:今回の課題は「How can we spread out the concept of “Unstereotype” in Japan.」(「アンステレオタイプ」という概念を日本でどう広めるか)というテーマだったのですが、僕らは盆栽をモチーフとした、ジェンダーバイアスを完全に取り除けるチャット型リクルーティングサービス『Bonsai』を考えました。
かなり簡潔に言うと、盆栽をスワイプしていたら最高の人材を獲得できるビジネス版のマッチングサービス(盆栽をスワイプするのでジェンダーバイアスはもちろんかかりません)、という感じでしょうか。
六郷:求職者が自身のLinkedInなど複数のSNSアカウントを連携させると、盆栽型のアバターが自動生成されます。採用担当者は自社の求人情報から自社の“理想の人材=盆栽”のアバターを生成し、登録された求職者の盆栽アバターと比較しながらマッチングさせます。
例えば、たくましい幹の盆栽は、長く堅実なキャリアを持った人材の可能性が高いです。Tinderのようなテキストを読まずに操作できるビジュアルインターフェイスが特徴で、直感的に判断できるUXとなっています。
大星:日本において、私たちは2つの大きな問題を抱えています。
1つ目は、採用フローの第1段階から、私たちは皆ジェンダーバイアスにさらされていること。
2つ目は、CXOは男性である、という固定概念を持ち合わせていること。
このリクルーティングサービスでは、求職者の盆栽アバターにはジェンダーに関する情報は含まれていません。採用担当者が盆栽を選定し、チャットでやりとりする際にも、無意識の偏見を最小化する採用フローを取り入れることができます。固定概念を超越し、企業にとって最高の人材を選べるように考えました。
ヤングライオンズに取り組もうと思ったきっかけは?
大星:自分の仕事の幅を広げたかったからですね。ソーシャルメディアプランナーとしてIMJで働き2年が経ちましたが、同じクライアントで同じポジションのままキャリアを重ねてきたので、これまでの学びをより俯瞰的なプランニング領域に応用することと、今後のキャリアへの種まきとして挑戦しました。
あとは、個人的にwebサービス等などには色々な領域でお金を使ってきたので、去年や一昨年のヤングカンヌ社内講評を見ながら、自分でもできるかも、と思っていた、というのもあります。
六郷:僕はキャリアを考えるうえで、経験したことのない領域に挑戦し視野を広げたいと思ったからです。IMJに新卒で入社して1年目でまだまだ経験したことのない業務が多々あり、特に普段の業務ではプランニングに携わることが少なかったので、ヤングカンヌの話を聞いた時に挑戦したいと強く感じました。
当時、担当していた案件のスーパーバイザーであった田口さんから初めてヤングカンヌの話を聞いた時、率直に面白そうと感じましたね。約2日間をかけてプランニングからクリエイティブまで落とし込む。こんな経験はなかなか出来ないと思いました。もしかしたら、田口さんからヤングカンヌの話を直接聞く機会がなければ、参加していなかった可能性は大きかったです。(笑)
実際にやってみてどうでしたか?何が大変でしたか?
六郷:今回のヤングカンヌ国内戦では提出期限の1週間前に課題が発表されたのですが、僕たちは本番を想定して土日の2日間かけてプランニングを行いました。2日でプランニングした経験がなく、時間配分の難しさを感じました。2日間の中で、アイデアが覆ったこともあり、1分も無駄に出来ないと思いました。ですが、どれだけアイデアに行き詰っても、『採用』における男女差別を解決するという方向性はブラさずに突き進みました。結果的に、アイデアを何度もブラッシュアップ出来たと思います。
大星:お互いのモチベーションを高い状態で維持しつつ、犬の道(無駄な作業)を走らないための環境設定に気を使いました。初対面の若手と組むことになったので、自分が引っ張らなければ、というプレッシャーもありました。そのために心がけたことは以下の3点です。
- 課題に対するVisionを何度も共有すること
- 作業部屋にあるホワイトボードの配置などを工夫し、必要な作業のみに集中できるようにすること
- 自分が若手より3倍がんばること
僕は入社の少し前からPLANETSというメディアで政治からサブカルチャーまで常にインプットしていたので、「How can we spread out the concept of “Unstereotype” in Japan.」という課題が出てすぐに、unconscious bias(アンコンシャス・バイアス)をいかに解決するか、という方向で考え始めることができました。
また、少しでも課題を深く理解するために、今回の課題の出題元である「国連女性機関(UN Women)」の理念を何度も確認し、親善大使のエマ・ワトソンのスピーチも一緒に見て、スローガンを常に部屋に貼るなどしました。
難しかったのは、<広告の力で><デジタル部門で><日本のCXOへ>という掛け算です。初期案は「性別のない履歴書」という方向で検討していたのですが、ありがちなソーシャルキャンペーンで必ずしもデジタル部門の内容とはいえないことと、CXOへクリティカルにアプローチできるか、という観点で疑問が残り、結果的にBonsaiへアイデアを切り替えました。
六郷:カンヌライオンズの賞獲得に必要な要因として、英語力・カンヌ事例への理解・チームメンバーの相性があげられるんじゃないかなと思うのですが、英語力は二人共、特に無し。(笑)
自分たちが伝えたいことと関連性の高い英語の記事などからキャッチフレーズを参考にしてボードに反映したり、一次選考通過の連絡を待たずにプレゼン練習を始めたりしました。
大星:カンヌ事例への理解については、IMJではヤングカンヌの社内プロジェクトがあるんですが、代表の田口さんを中心としてカンヌライオンズ受賞傾向やカンヌ受賞事例について研究し毎年知見をためており、若手からコンペ参加者を募集し勉強会など様々なサポートをしてくれます。僕も六郷さんも今年、この社内プロジェクトに初参加してから、本腰を入れてインプットしました。
あと、結果的に最高のペアとなれた気がしますが、今回が初対面でした。(笑)
ただ、どんな人と相性が良いか、悪いか、というのはチーム組みをされる田口さんにも事前に希望を伝えていました。組みたいチームのビジョンを前もって伝えること、チームメンバーを信頼して役割分担をすること、お互いをリスペクトして限られた時間の中で鼓舞しあうことは、普段の仕事においても成功するプロジェクトに共通することなんじゃないかなと感じました。
実際にやってみて何が大変でしたか?
大星:人を動かす難しさと、デジタルで今できることとできないことを頭に入れつつ、自分がいくらお金を払ってどれくらい使い続けるか、という体感値でアイディアを検討できたことでしょうか。
あとは、経済と行政の担当領域について切り分けて考えることができた、というのもチームの強みだったと思います。例えばシングルマザーの問題なども検討したのですが、これは広告で解決すべき問題ではないから、他の問題に集中しよう、というジャッジができました。
自分の専門領域以外の分野でもインプットを続けてきたからだと思っています。
六郷:ロジカルに筋の通ったプラニングのみで終わると、おそらくGOLDは受賞出来なかったと思います。今回、僕たちはリクルーティングサービスを提案したのですが、ロジカルに筋の通ったプラニングで終わるのではなく、ターゲットユーザーはこのサービスをどのように使用し、その先にどういった課題を解決できるのか、具体的なイメージを審査員の方に想起させることができたことが選ばれた一つの要因だったのではないかと思います。
このようなプラニングが出来たのも、先ほど大星さんがおっしゃっていた、課題に関するビジョンの共有を何度も行い、二人が同じ方向性を目指すことが出来たからだと思います。
大星:最後のプレゼンへの熱量は、どのチームよりも高かったと思います。僕はエネルギーが尽きかけていたのですが、ひたすら原稿を読み込む六郷さんの熱量に背中を押され、なんとか最後までやりきれました。
プレゼンの中で、六郷さんがこの課題を通して成長したことを伝えられたのもユニークだったと思います。(この課題を通して自分の固定概念に気づいた、という内容を入れました)
六郷:顔を合わせた初日からプレゼン本番まで、一貫して大星さんに何度も助けられました。多様な分野のインプット量、妥協しない姿勢など数えきれないほど助けていただいたと同時に、背中を押していただき、完走することが出来ました。二人の得意不得意分野をお互い補完し合ったことで、どのチームよりもブラッシュアップされたアウトプットになったと思います!
大星:手を上げれば打席に立たせてくれる社内のチームのみなさん、若造の僕にも常に前向きなフィードバックをいただけるクライアント及びエージェンシーのみなさん、ヤングカンヌへチャレンジするためのプロジェクトを毎年継続してくださっている諸先輩方、そして六郷さん……ありがとうございます!
六郷:日本予選ファイナリストに残った際、その後GOLDを受賞した際にコメントをくださったり、心より喜んでくださったみなさん、本当にありがとうございました。
そして大星さん。最後まで背中を押していただき、本当にありがとうございました!
若手の成長を促すヤングカンヌの意義
IMJではヤングカンヌの社内プロジェクトを通して、シニアメンバーを中心にカンヌライオンズ受賞傾向やカンヌ受賞事例について研究し、若手メンバーむけの勉強会やコンペ参加をサポートすることで、若手メンバーの成長を促しています。
カンヌコンペティションの本番は、2021年に開催されます。二人にはぜひ本番でも新しい体験を作り出す新しいアイデアを形にしてほしいと思います。
来年の二人の活躍が楽しみですね。