顧客体験ベースからみる、スポーツ観戦体験
上記の図は、今現在リリースされている事例と実証実験が行われた事例を1つの体験としてつなぎ、実際に数年後に実現されるスポーツ観戦体験を一つの流れとして体験ベースに並べ分類したものです。
これらのサービスを顧客体験視点で見たとき、ユーザーに与えている体験価値を見ていくと、 【不満解消系】【利便性UP系】【ワクワク系】の3つに分類できるのではないかと考えました。
「利便性UPとワクワク」が、新しい体験を生み出す鍵に。
「不満解消系」…これまで解消が難しかった課題を最新テクノロジーで解決
「利便性UP系」…隠れたニーズや不満を見つけ出し新しい価値を提供
「ワクワク系」…サービスで新しい体験や感動を創出
サービスが溢れる今の時代は、みなが共通して感じる大きな不満や不便さを感じる課題はあらかた解消されてきています。
これから新しい顧客体験を作り出し差別化を図るためには、「利便性UP系」と「ワクワク系」に目を向けることが、新たな体験を生み出す鍵となるのではないでしょうか。
ここからは、実際の事例を元に新しい体験を考えるヒントを紹介します。
①【スマートスタジアム&アプリ】体験がつながることで生まれる価値
新しいスポーツ観戦体験の中心となるのは、スマートスタジアムとその公式アプリの連携です。
スマートスタジアムで今最も先進的と言われているのは、アメリカのリーバイス・スタジアムと、サッカーの聖地イギリスのウェンブリー・スタジアム。その2つの事例を見てみましょう。
■スマートスタジアムの先駆け:米リーバイス・スタジアムと英ウェンブリー・スタジアム
この2つのスタジアムでは、高密度Wi-FiやBeacon、デジタルサイネージなどが整備され、スタジアム来場者が快適に過ごすための様々なサービスがスマホアプリを通して提供されています。
デジタルチケットはもちろんのこと、入場ゲートから自席までの経路案内、マルチアングルでの試合映像の呼び出し・再生やチームや選手の情報などの映像配信に加え、座席案内やフード予約・デリバリー、トイレの混雑情報など、上記の表にある観戦体験の多くが実現されています。
また、スタジアム内だけでなく、アプリから座席に近いスタジアムの駐車場を予約できたり、「Uber」と連動し試合終了時間に球場前にタクシーを配車されるよう手配ができたり、観光客向けのスタジアムツアーではVRでの試合開始前の選手控え室の様子を体験できるようです。この2つのスタジアムでは、高密度Wi-FiやBeacon、デジタルサイネージなどが整備され、スタジアム来場者が快適に過ごすための様々なサービスがスマホアプリを通して提供されています。
デジタルチケットはもちろんのこと、入場ゲートから自席までの経路案内、マルチアングルでの試合映像の呼び出し・再生やチームや選手の情報などの映像配信に加え、座席案内やフード予約・デリバリー、トイレの混雑情報など、上記の表にある観戦体験の多くが実現されています。
参照記事
https://www.sapjp.com/blog/archives/24936
http://digital-innovation-lab.jp/levis_stadium/
https://stadium-hub.com/00246.html
https://sjn.link/news/detail/type/report/id/195
https://spodigi.com/sports-business/sponsorship/ee-wembley-cup-with-fa/
②【不便解消系】行列がない時代が到来。ウォークスルー顔認証、弁当デリバリー、IoTトイレ
■チケットレスは当たり前!進む「顔パス」入場。「ウォークスルー顔認証システム」
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では、アスリートと約30万人の大会関係者の入場本人確認にNECが開発したウォークスルー顔認証システムが導入されます。東京オリンピックでの導入に先駆け、ラグビーW杯でも選手や関係者の顔認証入場を実施されました。
今後、入場ゲートは行列しない・混雑しないが当たり前になっていくでしょう。
また、ウォークスルー顔認証はスタジアムの他にも、空港や地下鉄でも導入が進んでいます。成田空港での手荷物の預け入れや搭乗に、また大阪メトロは133あるすべての駅で顔認証入場を導入すると発表。AKB48は2019年10月よりNGT48劇場で顔認証システムを導入するなど、スポーツ業界に止まらず、ウォークスルー顔認証は様々な業界・場所で活用され始めています。
高セキュリティと快適性を併せ持つウォークスルー顔認証システムは、セキュリティを監視する必要のある出入り口であれば、マンションエントランスや個人宅に設置するなど、活用の幅が広がっていくのではないでしょうか。
■席までデリバリー!大宮アルディージャ「スタジアムグルメ予約&デリバリー」
「大宮アルディージャ公式アプリ」では事前の弁当予約購入はもちろんのこと、座席までお弁当を「デリバリー」してくれるサービスを提供。アプリで弁当をオーダー・決済する「フード・ファストパス」は、行列に並ばずにアプリを店員に見せるだけでピックアップ完了します。
デリバリーしてもらうのか、自分でピックアップするのか、など複数の手段を用意し、顧客に選ばせるというのは、これからの良い体験を考える上で参考になるのではないでしょうか。
また、ドローンでデリバリーを行う実験も行われています。楽天が楽天生命パーク宮城で行なった実証実験では、ドローンから撮影した映像でスタジアム内の人物特定ができることを確認したそうです。
2019年はMaaS元年に位置付けられており、ドローンを使ったモビリティサービスもAmazonやUber、ヤマトHD、楽天ドローンなどが実証実験を行うなど、スタジアムだけに止まらず、今後注目の分野です。
参照記事
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000050.000002473.html
https://www.ardija.co.jp/ticket/fastpass_delivery.html#delivery
■AIカメラで売店に並ぶ人数を把握、混雑状況を表示
昭和電工ドーム大分では、AIカメラをつかった売店の混雑をモニタリングする実証実験が行われました。AIカメラを使用し、人を検知し売店に並ぶ人数を数えて、売店の混雑具合を表示するそうです。
■“トイレ先進国”日本のトイレ混雑解消「IoTトイレ」
海外ではリーバイス・スタジアムなどが、トイレ混雑表示をリアルタイムにアプリに表示させる取り組みを行っています。日本では、ソフトバンクのヤフオク!ドームでIoTトイレのセンサリング実証実験が行われており、設備の利用頻度や水石けんなどの残量を遠隔で把握できるモニタリング検証しているそうで、今後取得したデータをトイレ混雑の解決にも利用する検討をしているそうです。
最近では、名古屋グランパスエイトが豊田スタジアムなどでトイレ混雑緩和に取り組むと発表がありましたが、まだサービスとして実装されているスタジアムは無さそうです。
トイレ先進国の日本。海外に負けないIoTトイレがきっとあるはず!と調べたところ、小田急新電鉄の新宿駅や下北沢駅の混雑状況がわかるIoTトイレを発見。列車のリアルタイムの走行位置などを知らせる「小田急アプリ」に、駅のトイレの空き状況がリアルタイムでわかる機能が搭載されています。Twitterでも結構反響が大きいようです。
この他、百貨店などでもIoTトイレが導入されたりするなど、日本中のあらゆる施設のトイレがIoT化され、トイレ行列がなくなる日も近いかもしれません。
参照記事
https://japan.cnet.com/article/35132018/
https://time-space.kddi.com/kddi-now/kddi-news/20171212/2185
③【利便性UP系】初めての場所でも困らない!広いスタジアムを事前にチェック&スムーズに移動
■事前に席からの眺めが確認できる「シートビュー」
埼玉西武ライオンズオフィシャルサイトのチケットページでは、「座席パノラマビュー」機能でメットライフドームの座席からの見え方を、事前に高解像度のパノラマ写真で確認してから、購入することができます。
このようなチケット購入時のシートビュー機能は、購入後のイメージギャップを埋める助けとなり、顧客からの信頼性の向上につながっているのではないでしょうか。
コンサートや映画館などのオンラインチケット購入でも取り入れると良さそうな機能ですね。また、顧客体験の向上として、購入後のイメージギャップを最新テクノロジーで埋める方法を検討するというのは、住宅購入やファッション通販など、色々な業界でも参考になるのではないでしょうか。
参照記事
https://time-space.kddi.com/au-kddi/20181031/2482
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00202/00006/
■Beaconで現在位置を把握。自席や売店へルート案内
NTTドコモは、日産スタジアムにて座席ナビゲーションの実証実験を行いました。実証実験用に開発した「日産スタジアム座席案内」アプリで、チケットに記されている座席シートの番号を登録すると、入場ゲートの入り口から座席までをナビゲーション。また、座席以外にも近いトイレや売店の位置情報が表示されます。
このような建物内の位置情報やルート案内は、スタジアムに限らず建物や大規模複合施設などであれば、利便性アップに欠かせないものになりそうですね。
子供や初めて来た人など限られた人にとってはとても助かるツールなのではないでしょうか。こういったターゲットボリュームが少ない特定の人たちの困ったを解消するという視点は、これからの新しい体験の創出や、ブランド価値を向上に役立っていくのではないかと考えます。
④【ワクワク系】新しい観戦体験!AR・VR、マルチアングル観戦、リプレイ映像再生、パブリックビューイング
■ARグラスでの観戦中のデータ配信は、ライブとTVのいいとこ取り!
多数のカメラで撮影したマルチアングル映像やリプレイ再生、選手情報などを、VRヘッドセット・ARグラス・タブレットなどに転送し、新しい映像体験を作りだす実証実験がここ数年、盛んに行われています。
KDDIが2019年10月に行った、札幌ドームでの日本ハムファイターズ戦で行われたARグラスを活用した実証実験では、全身でスタジアムの熱気や歓声を体感しながら、スマートグラスの中では選手のデータなどが常に提供され続けているのが、まさにライブとテレビ観戦とのいいとこ取りで、有料でも利用したいという声もあったとのこと。
ハイライト場面のリプレイや選手視点での映像など、肉眼では絶対に見ることができない視点やこれまで見たことのないような映像が楽しめるという魅力を、視界を妨げずにどのように提供するためにいかに良質の顧客体験としていけるのか、各社の取り組みに期待が膨らみます。
■体験価値を観戦前にも広げる、ARスタンプラリー
カシマスタジアムで実施されたARスタンプラリーは、ARマーカーをスマホのアプリから読み込むと、バーチャルの選手たちと一緒に写真撮影。10選手分を集めると、選手からお礼がもらえます。
カシマスタジアム以外でも、横浜DeNAベイスターズなど、今年に入ってから様々なスタジアムでARスタンプラリー企画が開催されるようになってきています。
参照記事
https://www.so-net.ne.jp/antlers/mdp/52185/64960
https://www.so-net.ne.jp/antlers/sp/photo-reports/event-reports/64703
https://bae.dentsutec.co.jp/articles/smart-stadium/
■VRツアー
カシマスタジアムで行われた鹿島アントラーズ「mercari day」では、VRを活用したイベントを実施。スタジアム来場者だけが視聴できる、試合に臨む選手の様子を12番目の選手として疑似体験できる360度VR動画の体験を実施されました。
こちらのJリーク日本代表戦では、当日の場外イベントとしてデジタルスタンプを実施。スタンプをすべて集めると、サッカー日本代表のVRドキュメンタリー「The Blue-勝利に向けた日本代表戦の舞台裏-」が配信されました。
こういったARやVRを使った施策は、これまでの「楽しみなのは試合観戦だけ、その時間以外は混雑や行列は我慢するもの」という体験を、「試合観戦前後の時間も快適に過ごし、さらに楽しさがある」時間に変化させることで、スタジアムへの来訪動機を高め、スタジアムに滞在する時間そのものを楽しい観戦体験に進化させているのです。
スタジアムを「試合を観戦するために行く場所」から、「スポーツをエンターテイメントとして楽しむための場所」に変えたと言えるでしょう。
ワクワク体験をメインコンテンツの前後の時間にも広げることが、体験全体の価値を上げることにつながっていく。色々なサービスに応用できる大事な示唆ではないかと思います。自社のサービスでどう体験を広げていけるかを考えるヒントがあるのではないでしょうか。
参照記事
https://about.mercari.com/press/news/article/20170829_mercariday/
https://www.jfa.jp/national_team/news/00022477/
https://bae.dentsutec.co.jp/articles/smart-stadium/
■オリンピックに向け、盛り上がるパブリックビューイング
パブリックビューイングというのはイベントスペースに大画面を設置し、大勢の人たちが集まってリアルタイムで試合観戦するスポーツ観戦イベントです。
ん?スポーツバーと何が違うの?と思った人もいるでしょう。
最先端のパブリックビューイングでは、5Gを使った現地との遅延のない映像、複数の8K・4Kスクリーン、ドルビーアトモス、ほかにもマルチアングル映像やアプリ連動でのイベント演出などによって、最新テクノロジーを使って試合会場の熱気を没入感・臨場感高く再現し、現地と同じように観戦の興奮を沸き起こる場を提供しようとしているのです。
JリーグとNTTグループは、ライブビューイングイベント「Jリーグデジタルスタジアム」を開催。有料だったが全395席が完売したという。
2019年秋に行われたラグビーワールドカップでは公式も含めたくさんのパブリックビューイング会場が設置され盛況だったようです。
これまでスタジアムで観戦するか、TVやスマホでのライブ映像だったものが、パブリックビューの登場により、多くの人に観戦機会を広げ、新たなタッチポイントを生み出そうとしています。
2020年のオリンピックでも、多くのパブリックビューイングが行われ盛り上がりを見せるのではないでしょうか。
これまでの「観戦の興奮はスタジアムならでは。TVでは得られない」という体験が、「スタジアムに行かなくても、バブリックビューイングに行けば観戦の興奮が楽しめる」に変化することで、これまで現地でしか得られなかった観戦の興奮が、遠く離れた場所でも体験することができるようになっていくでしょう。
参照記事
https://online.stereosound.co.jp/_ct/17272308
https://www.screens-lab.jp/article/20860
https://www.olympicchannel.com/ja/stories/news/detail/ラクヒ-ワ-ルトカッフ-チケットかなくても観戦てきる-ハフリックヒュ-インクとは/
まとめ:3つの軸で考える、こらからの顧客体験
こらからの顧客体験を考えるには、「不便解消」「利便性UP」「ワクワク」の3つの軸に、最新テクノロジーやエクスペリエンス潮流、ターゲットなどの切り口を掛け合わせることで、これまでにない新たな体験を生み出す足掛かりになるのではないでしょうか。
新しい顧客体験を考えるポイント
- 複数の手段を用意し、顧客が選択できるようにする
- 高品質な体験が積み重なることで、ブランド価値の醸造につながる
- 待たせない。行列しない・混雑しないは当たり前になっていく
見える化することで、利便性を上げる - 購入後のイメージギャップを最新テクノロジーで埋める方法を検討する
- 対象ボリュームは少ない特定の人たちの困ったの解消
- ワクワク体験をメインコンテンツの前後に広げることで、体験全体の価値を上げる
今回はスポーツ観戦体験の事例を取り上げましたが、特にオフラインの施設ではこの記事で紹介した事例やテクノロジーは、応用できる範囲も多いと思われます。
自社の持つ施設やサービスでの体験価値を高めるには、テクノロジーファーストで考えず、何のために誰に対して、何をスマート化することが顧客体験を上げることになるのかを、顧客体験ベースで考える必要があるのではないでしょうか。