ゲストスピーカー
>高橋真也氏
野村證券株式会社
マーケティング部 次長 マーケティング課長 兼 宣伝課長
>江島周平
株式会社アイ•エム•ジェイ
アカウント第3統括本部 アカウントマネジメント第1部 マネージャー
『EL BORDE』 https://www.nomura.co.jp/el_borde/
若い世代だけではく全世代がネット証券に流れている
竹内 ここのところ『コンテンツマーケティング』がある種の流行言葉みたいになっているところもありますが、「手を出したはいいけれど、何のためにやったんだっけ?」「そもそも質としてどうなの?」「せっかく作ったのに社内からの『これ何のためにやってるの?』の一言で終了する」、というのはよく伺うお話です。そのあたりを今日は野村證券の高橋さんとともに、実情を含めてお話ししていきたいと思います。高橋さんはマーケティングをやられて8年。現在は新規獲得のデジタル周りからマス広告まで、野村證券のマーケティング全体をみていらっしゃる。証券会社で8年間マーケティングをやってらっしゃるのって珍しいですよね。
高橋 そうですね。私は営業出身なので、体育会系です(笑)。
竹内 そして、野村證券さんと一緒に今『EL BORDE』をやっている江島さん。
江島 私はIMJに来て3年と少し。入社してからずっと野村證券さんとご一緒していて、今は『EL BORDE』のプロデューサーという立場です。ひとつ言っておきたいのは「のむログ」は僕が考えたコンテンツです(笑)。
高橋 (笑)。すごく最初からこだわってたよね。うちの社内でも「のむログ」のお店に行こう!ってよく言ってますよ。これホントの話です。
江島 本当にホントですか(笑)。
竹内 (笑)。本題に入る前に、証券業界を取り巻く現状をざっとおさらいしておきます。金融庁はずっと「貯蓄から投資へ」ということを促進している。でも「貯金が大好き日本人」なので、欧米に比べてなかなか投資が広がらない。私自身、投資信託はやっていますが株には踏み込んでいないんです。「iDeCo(イデコ)」や「つみたてNISA(ニーサ)」について、皆さんも知ってはいるけれど踏み込んでいない人がほとんど。一般的に早く始めた方がいいと言われているけれど利用者数は上がっていないのが実情です。
そんな証券業界の中で野村證券さんの規模感は圧倒的です。ネット証券も台頭してきていますが、実際の数字を見ると全然違います。ただ、売上の伸び率という部分でネット証券が攻勢なのは事実です。野村證券さん自身も現状環境として「投資家の裾野は広がっておらず、とくに若年層へは広がっていない。上位顧客の大半は60歳以上。ネット証券の台頭があり、全世代がネット証券に流れている」と公表されています。ネット証券の利用は年代に関係なく、若いからネット証券というわけではないのですね。
証券業とデジタルは相性がいい
竹内 ネット証券の台頭、証券業界に与えたデジタルの影響って、高橋さん実感値としてはいかがですか?
高橋 そもそも証券業とデジタルって相性がいいんです。目に見えないものを扱っているので、トレーディングとかもデジタルにのりやすかった。おそらく既存の伝統的なプレイヤーにネット系の新しい企業がもっとも追いついている分野だと思います。ちなみに、オンライントレードを初めて取り入れたのはおそらく野村證券です。その頃はインターネットがなくて「ファミコントレード」。昔、ファミコンというのがありまして、きっと知らない人いますよね? カセットをカチャッと入れるんです(笑)。そんなオンラインの流れを一番受けたのは証券業界なのかなと思います。
竹内 ファミコンはさすがにみんな知ってます、よね(笑)!? ただ「ファミコントレード」の話は知りませんでした! 野村證券さんってそうした取り組みが早い印象があります。
高橋 新しいことにチャレンジしていこうというカルチャーはありますね。とりあえずやってみよう、という。コンピュータを日本の金融機関で最初に導入したのもうちが最初じゃないかな。「UNIVAC(ユニバック)」という今では博物館に飾ってあるようなコンピュータです(笑)。我々の扱っている商品が有価証券なので、今日買ったものが明日には価値が2分の1になるという世界。考えて考えてやっていても相場によって翌日には変わってしまう。だから、考えてばかりいても仕方ないからやってみよう、というカルチャーは昔からあります。
竹内 そうなると、スピード感が必要になってきますか?
高橋 それはよく言われます! 昼飯でさえ昔は「5分で食べろ」なんて言われてました(笑)。25年前くらいの話ですけれどね。
竹内 デジタルというチャネルの役割や位置づけはどうですか?
高橋 ネット証券ってようは取引インフラをオンラインで提供する。便利で早くて安くてすぐに取引できる、というビジネスモデルなんですが、我々はインフラ提供業ではない。何のために投資をするんですか?、目的は?、そのために今何をしたらいいのか?、というのが野村證券のビジネスモデルなんですね。インフラ提供ではなくて。そこが強み。それを人の手で行ってきました。営業マンが7000人くらいいて、1人約300世帯を担当しますが、全然手が足りないんです。インフラが整って来てもどうして広がらないかというと、もともとやっている人はすぐにそのインフラを使ってできるけれど、やっていない人はどうしたらいいかがわからない。だから広がっていかない。日本は金融リテラシーが低いので、我々がやってきた「アドバイス」というのをやはり提供していかなければいけない。でも人では限界がある。デジタルアドバイザー的なことをやっていこう、というのが野村證券でのデジタルチャネルですね。
竹内 「対面」と「非対面」は対立項ではないと思いますが、リアルとデジタルの組み合わせやすみ分けなどはどう考えていますか?
高橋 まさに以前は対面部門、非対面部門という分け方をしていたんです。社内の組織も、お客様に対しても。非対面(デジタル)のお客様が窓口に来ても「あなたは対面のお客様ではないので……」というような感じだった。数年前まで、うちに限らずどこもそうでした。でも、もうそういう時代じゃないですね、と変わった。お客様が好きな時に好きな手段で我々にアクセスできるのが理想なので。今日は対面がいいから窓口で、今日は忙しいからオンラインで、とアクセスタッチポイントの種類が増える、という考え方です。
竹内 今でも、なぜかデジタルマーケティングだけがマーケティングから切り離されている企業さんが少なくないのですが。野村さんがそれって分けておく必要ないよね、ということに組織として気づくというか、変えたきっかけってありましたか?
高橋 いまだにそう考えている経営者も多いと思います。うちはきっかけというのはないけれど、とにかく現場が言い続ける、やり続けるしかないかなと思います。あとは、経営陣は自分の目で見ないと信用しないので、海外に連れて行くといいですね。オムニチャネルとかはヨーロッパが進んでいるので、ヨーロッパに連れて行く。百聞は一見にしかず、ですね。
竹内 なるほど。我々も海外のカンファレンスに行くと意識が変わります。その熱に浮かされて帰国すると壁にぶちあたる、ということはありますが(笑)。お客様と一緒に行ってしまうというのはありかもしれませんね。
コンテンツとはターゲットに伝える営業ツール
竹内 野村さんはさまざまなコンテンツを作っています。それはなぜですか?
高橋 目に見えるものを販売しているわけではないので、そもそもコンテンツがないと伝わらないんですね。触ってもらえるような製品がない。目に見えない、かつ、有価証券なので、どこで買おうが、トヨタの株はトヨタの株なんです。100%コモディティ化している業界なので、我々だったらこうなのだ!というコンテンツが重要。どの会社で買っても変わらないものは、会社に共感できるとか、この会社が好きとかがないと絶対に買ってもらえないんです。
竹内 たしかに業界によってコンテンツマーケティングの取り組み方って変わりますね。どこで買っても変わらないという市場で、野村さんを選んでもらうために、消費者がバリアを張っている時の手段としてのコンテンツなのかなと。
我々の取引先でも「コンテンツマーケティングやりたい」というお客様は少なくないのですが、つまずきやすいポイントを考えていきたいと思います。コンテンツマーケティングってヘタすると企業への不信感や不満につながってしまいますし、作っておしまいで更新されない、誘導されないために流入していかない。公開後に「いいのできたの?」「どんだけコンバージョンしたの?」と問われて言葉に詰まってしまう……。社内の説得はどうすればいいのか、とか。そのあたり野村證券さんではどうしていったのか? そもそもコンテンツの定義をどう捉えているかなどもお聞きしたいです。
高橋 コンテンツとは、非常に単純化していえば営業ツール。ターゲットとなる人へ伝えるための営業ツールです。何でもいいと思います。キャラクター=コンテンツではないし「人に刺さる」というのが重要です。
竹内 江島さんはどうですか?
江島 ターゲットの態度変容ができるもの。相手の気持ちを変えるものであれば絵であろうが、写真であろうが、「のむログ」であろうが、なんでもいい。
竹内 キャラクターという言葉が出てきましたが、コンテンツマーケティングとキャラクターマーケティングって混同されやすい気がするのですが、どう使い分けがあるんですか?
高橋 そうですね。まずキャラクターマーケティング、コンテンツマーケティングという言葉を使うことはなくて「こういうターゲットにこういう態度変容させるための企画である」ということですね。コンテンツマーケティングみたいな言葉を社内で使うと「専門用語でむにゃむにゃっと企画を通しにきたな!」と思われる(笑)。だからあんまりそういうことは言わない。そういうこと言うのってたいてい代理店です。「今はコンテンツマーケティングの時代です! 他社では……」みたいなことよりも、もっと具体的に誰をどう態度変容させるかを明確に定義していった方が社内に話も通しやすいですし、その後のアクションにもつながりやすいです。
竹内 提案する我々側としては、ふわっとした言葉や専門用語を使わずに説明したり提案したりできているのか……。江島さん、どうですか?
江島 高橋さんのように中身を分かっている相手とふわっとした言葉で話す時は問題ないですが、わかっていない相手とふわっとした言葉だけで合意して進んでいくと、「あれ? こういうことだったんでしたっけ?」ということがよく起こりますね。
竹内 皆さんもお客様から「何言ってるかわかんないよ」って言われたことありませんか? 業界的に横文字とか3文字略語が多いので注意しないといけない部分ですね。
今回のゲスト、証券業界マーケター高橋氏。新しいことに挑戦し、継続し続ける強さの裏にはお客様への想いが垣間見えました。
「コンテンツマーケティング」において、お客様に伝えたいことを伝え、お客様の行動にいかに影響させるかを重要視している高橋氏の考え方を第2部では事例を踏まえてご紹介します。
>>インタビューの続き、第2部「コンテンツマーケティング成功のポイント」はこちら!
第2部では、実際体験した過去の失敗談から『EL BORDE』誕生の舞台裏まで、貴重な話が次々と。
コンテンツマーケティングを推進するための極意、コンテンツマーケティングの成果を測る「中間KPI」の設定など、考えさせられる話題が満載です!
ぜひ第2部もご覧ください!
【IMJ LIP 〜パートナーに聞く〜 第2回】