ゲストスピーカー
>片山義丈氏
ダイキン工業株式会社/ 総務部 広告宣伝グループ長 部長
デジタルの登場で変わったのは「情報量」と「メディア」
竹内 コミュニケーションやブランド畑を長年歩み続けている片山さんから見て、デジタルの登場はどういうものだったのか。具体的に何が、どう変わったのでしょうか?
片山 私は入社以来コミュニケーションに関する仕事をしています。私がやっていることは広く薄くで、『自社WEBサイト』、それに従来概念の『広告』、『広報』とそれに加えていわゆる『デジタル』といった4つの分野です。
デジタルの話になるといつも思うんです。「デジタルマーケティングって何ですか?」と。
皆さんもマーケティングといえば4P(プロダクト/プロモーション/プレイス/プライス)と習ったと思います。デジタルマーケティングという言葉は客寄せにはとてもいいけれど、あくまでもマーケティングの手法としてデジタルを使うということであり、すごいことのようにデジタルマーケティングを取り立てて切り出すことには、ほとんど意味がないと私は考えています。
ただ、デジタルの登場で間違いなく変わりました。まず、メディアが変わった。情報を人に伝えていくために、昔は 「 テレビ/新聞/雑誌」とそれぞれのメディア上の「広告」で事足りた。日本の企業のエライ人の頭の中はこの残像が強い。社用車に乗って移動しているから、電車の中ではまだ皆が新聞を広げていると思っている方もいるのではないでしょうか。でも世の中、実際には急速に変わっている。もう、ペイド、アーンド、オウンドのトリプルメディアです。
「エアコンを買う」でいえば、テレビCMでダイキンがエアコンを売っていることを知る(=ペイドメディア)。いざ買う時には、ニュースメディアや価格ドットコム、口コミサイトなどで調べる(=アーンドメディア)。最後にメーカー発信の情報でスペックを確認する(=オウンドメディア)。そして、買う。生活者は3つのメディアを無意識に行き来している。逆にいえば我々はこれらのメディアをどう組み合わせてコミュニケーションしていくかという視点で情報発信を組み立てる必要があります。
そして、もうひとつデジタルの登場で変わったことは、情報量がものすごく増えたこと。毎日さまざまなメディアから膨大な情報を浴びることになったので、テレビだけでコミュニケーションする時代は終わりました。もっといえば広告だけではコミュニケーションできなくなっています。そもそもテレビには若年層が少なくて高齢者しかいない。さらには接触する情報量が莫大に増えた結果、みんな情報に対してバリアを張っていて、一番うさんくさそうな情報、つまり『広告』がいうことをそのまま信じてはくれません。非常に面倒くさいことになっています。
あれ、こんな調子でしゃべっていていいですか(笑)?止めてくださいね。
竹内 (笑)。ぜひお話を続けてください。
片山 「これからはモノからコトへだ」というのもよく言われるんですけれど、これ、嫌いな言葉です(笑)。「モノからコトって何ですか?」って聞くと、「つまり生活者はモノよりコトを求めているんです!」と。で、「コトって何ですか?」。「うーん、うーん、つまり体験です!」。これ、だいたい考えていない人が言います。コトへ変化したことが自分の仕事にどのような影響があるのか?ということにまで突き詰めましょうね。はやり言葉で思考停止するのはもったいない。
幼稚かもしれませんが、私のやっているコミュニケーションという仕事におけるモノからコトへの対応は「企業サイドの一方的なモノについての情報は伝わりにくい。自分ゴト化できない情報はバリアを越えて届いていかない」ということを認識して対応すること。たとえば、広告がバリアで届きにくい中で、三太郎や白戸家は広告クリエイティブの力でいろんな情報を自分ゴトに置き換え、バリアを破っているのか、とか。自分ゴト化した情報を求めて探す時にはアーンドメディア、オウンドメディアが重要なメディアになっているな、とか。認識し対応することだと思っています。
ついでにもう一つ言っておきたいのは、テレビはすごい、ということ。デジタルの人は「テレビは終わりました」と言う人が多いですが、「あんたらにどんだけテレビのことがわかってるんだ」と思います。短期間に日本全国に認知を広げようと思ったらこれほど効率的なものはない。少なくともあと10年は、テレビは最強です。高齢化日本においてお金を持っているのはおじいさん、おばあさんですから。
それとテレビの何がすごいかってデータがないということ。広告出した成果を責められない(笑)。極論すれば「あれどうだったんだ?」って聞かれたら、笑顔で「良かったですよー!」と言うことでおわってしまう。デジタル広告の場合はデータが出るのでばれちゃう。データがないということがどれだけ素晴らしいか(笑)。そういう意味でもテレビは最強です。
その分野の旬の会社と仕事する。そして、そこの誰とやるか
竹内 「トリプルメディア」って言うはやすしですが、どう組み合わせていくのかを考えるのは難しいですよね。
片山 昔は広告代理店に丸投げすればよかったんです。そうするとメディアミックスという素晴らしい言葉でいろんなことをやってくれた。でも、今は丸投げしたらダメ。たとえばデジタル広告に関しては広告代理店さんによって強い弱いがあって、クライアントもだまされちゃう。
竹内 それぞれの領域にプロフェッショナルのパートナーさんがいるのだろうとは思うのですが、ダイキンさんはパートナーの選定に関して実際どのようにしているんですか?
片山 それぞれの分野で第一人者もしくは旬の会社さんとやる。マスの分野は相変わらず電博さんは強い。デジタル広告はサイバーさんが強い。デジタルマーケティングならIMJさんが強い!と思っております(笑)。戦略PRはまた違う強い会社(インテグレート)さんと一緒にやっています。
ただ、問題は、その会社の誰と仕事をするかです。「広告代理店の営業の言うことを鵜呑みにするな。なぜならうちのような会社に普通にまわってくる営業はエース級のはずがない」と昔の上司がよく言っていました。会社ではなく、その会社のどの人とやるかをとにかく意識してやっています。いろんなエース級、もうすぐエース級、とにかくできるだけ優秀な人とやり、ダイキンの仕事でそれぞれの人に能力を最大に発揮してもらって成功してもらう。その人の社内での評価や地位が上がってくれたら、また次、ダイキンの仕事で頑張ってやろうと思ってもらえる。ダイキンは競合に比べて予算は少ない。少ないお金で頑張ってもらうためには、優秀な人の能力を借りまくる。それしかない。
竹内 誰とやるかを大事にしている片山さんは、どうやって人を見分けているんですか?
片山 よくできる他社の人に聞く。
竹内 (笑)
片山 できる人から「あいつできるで!」と言われる人はたいてい本当にできる。でも相性もあるし、その人の得意分野もある。そこは、自分たちと合う人を探すしかない。基本的にはできる人のまわりにはできる人が集まるので、そこにすり寄っていって紹介してもらいます(笑)。
「シャープ公式」中の人からのパスを無駄にする“丸投げ”の罪
竹内 先ほど「代理店に丸投げはダメ」っておっしゃっていましたが、広告代理店はおんぶに抱っこに高い高いまでしてくれる。それではダメだというのは、片山さんはいつ頃から感じていたんでしょうか?
片山 特にダメだと強く感じだしたのは10年くらい前かな。ひとつ、最近の出来事でこんなことがあったんです。1月半ばに首都圏で大雪が降った。誰にとっても雪問題が自分ゴト化した。みんなが雪問題について検索する。そんな時こそ、ダイキンがしゃしゃり出る絶好のタイミング!と思った。しかも私たちには『大雪の困りごとと解決法』という5年前に作ったページがある。雪が降った時に「暖房つけても暖かくならない…」「室外機どうなってるんだろう…」みたいになるじゃないですか。そんな疑問や不安に答えたコンテンツです。大雪でエアコンのことが気になったら(自分ゴト)、ダイキンがその答えを教えてくれる。すばらしいコンテンツでブランドイメージも向上する大チャンス。ネット検索でコンテンツを見つけたテレビ局からも「ダイキンさん取材させてください」と連絡がいっぱい来る。そ〜れみたことか。 5年前に仕込んだ種が今っ!!と機嫌もよくなる一方で、ビールもうまい(笑)。トップページにもバナー貼っておこう!と急いでやっていたんです。
ところが、ちがう部署でSNSをやっているんですけど、なんとその日の投稿が雪と全く関係ない「行こう幕張メッセ!」ですよ。FacebookもTwitterも。数日前には「大雪の時の対策法」と投稿しているのに、なぜ今、絶好のタイミングで出さない!なぜ幕張メッセなんだ!?と……。
で、その間になにが起こったかというと……プロの人は違います。
「シャープ公式」中の人がいきなりTwitterで「わかりやすいのでダイキンさんの対策ページを貼っておきます」って。このフットワークの軽さ! そしてコメントには「他社を紹介するなんてさすがシャープさん!」「うちのエアコン実はダイキンなんですが次はシャープにします。ありがとう!」ですよ。
竹内 やはりリアルタイム性は必要で、機動力がないと置いていかれてしまうんでしょうか。
片山 誤解のないようにいっておきますが、ダイキン社内のSNS担当は本当に優秀な人なのです。ただ今までの業務量そのままで、プラスしてSNS担当もやることになってしまった。大雪コンテンツへの差し替えに動いてはくれたのですが、アップするまでの社内決裁ルートが複雑で間に合わなかった。デジタルはほんとに手間がかかる。デジタルでやることが増えているのに、社内体制がなかなかそれについていけない。力がさけないと丸投げに近くなる。そこに思いがないから、みんなが作業になってしまう。作業している人が悪いわけではない。社内担当が悪いわけでもない。強いて言えば、こんなとこで偉そうにしゃべっているくせに、機動力が必要なことわかっているのに、そういうコミュニケーション体制しかできていないこと。つまり私の社内への説得力・能力のなさが悪いんです。チャンスを逃してしまった。機嫌良く飲んでいたビールがやけ飲みになってしまったという……。主導サイド(クライアント)がどれだけ本気になるか。「俺は本気じゃないけど、あんたは頑張ってや!」は無理な話。ひとつずつ、いかに本気でやるかです。
で、何の話でしたっけ(笑)?
デジタルマーケティングにおいて、どのように世の中を捉え、どのように自分の考えを持つのか。そして、誰とどのように仕事をしていくことが大切と考えているのか。
コミュニケーションにおけるスペシャリストである片山氏の本音が聞くことができた貴重な時間でした。
>>インタビューの続き、第2部「デジタルをブランディングにどう生かせるか?」はこちら!
第2部では「デジタルでどのようにコミュニケーションすべきか、ブランディグをすべきか」を語っていただきます!
また、IMJ側からの質問に対して、率直に答えていただき、デジタル施策に関しての片山氏の見解、デジタル系の会社がやりがちな「悪い提案」についてなど、デジタルに携わる方なら押さえておきたいポイントが続出します。
クライアントという立場の本音を語ってくれたリアルな発言に注目です。
ぜひ第2部もご覧ください!
【IMJ LIP 〜パートナーに聞く〜】