【IMJ NPSコンサルティングチーム】
嶋田 優子
NPSコンサルタント
Net Promoter(R) 認定資格者
1 アンケートは結果の「分析」よりも、事前の「設計」が重要!
皆さんはアンケート調査を行う際、どのような調査票(設問項目)を作っていますか?
ただ、なんとなく聞きたいことを並べただけのアンケート調査を行うと、欲しい結果が得られなかったり、分析しても肝心なところが抜けていたりと、結局は今後に活かすことのできない意味のないものになってしまった、なんて経験をされた方も多いのではと思います。
こうならないためには、アンケート調査を行う際には、アンケートを行う背景や、明らかにしたいこと、得られたデータをどう活用するのかを事前に明確にしたうえで、誰に・何を・どのタイミングで聞くのか、どのように分析して、そこからどのような示唆を得るのか、そこまでをちゃんとイメージして設計することが重要になります。調査設計の段階で、きちんと考えているかどうかで、その調査の成否が大きく左右されるのです。
そのためには、事前に簡易的なカスタマージャーニーを描いてどの部分を深掘りするかを検討したり、クライアントのさまざまな関係部署の人にヒアリングを行うなど、時間をかけて調査設計を行うことが重要です。
2 アクションを考えるには、NPSの理由(フリーアンサー)だけでは不十分?
NPSのガイドブックには、必ずと言っていいほど「NPSのスコアだけではなく、そのスコアを選んだ理由、つまりフリーアンサーも聞くこと!」と書かれています。もちろん、これまでの連載でお伝えしてきたように、IMJがNPS調査を行う際にも、必ずフリーアンサーの設問を入れるようにしています。
なぜなら、この「NPSスコアを選んだ理由」(フリーアンサー)を分析することで、企業の課題が把握でき、取るべきアクションを検討できるからです。
ただ、「NPSスコアを選んだ理由」のフリーアンサーを分析した結果、生まれたアクションは、主に顕在化している不満を解消・改善するためのものにすぎず、下図で示す「基本価値」「期待価値」「願望価値」を満たすためのものでしかありません。つまり、「予想外価値」を満たすような感動体験を創出するには、NPSの理由を分析するだけでは不十分ということが分かるでしょう。
NPS向上のためのアプローチは2種類あると連載第3回目で紹介
「自社で独自にNPS調査をやってみたが、次にどんなことをやればよいのか分からない」というご相談をよくいただきますが、それは調査設計がうまくできていないことに起因するケースが多いのです。そのご相談に対してIMJが行った支援のケーススタディをご紹介します。
<CASE STUDY>【某クレジットカード会社様】
自社で行ったNPS調査
●自社(あるいは製品・ブランド)を友人・知人などの親しい人にどの程度勧めたいですか?
●そのスコアを選んだ理由フリーアンサー
実施方法
これまで行っていたお客様アンケートに設問を追加導入
課題
●NPSスコアも出て、推奨者・中立者・批判者で比較もしたけど、そこからどう分析したらいいのか分からないし、どんなアクションをとればよいのか分からない。
●フリーアンサーを取ったけど、どう分析したらよいのか分からない。全部読むのも大変……。
IMJの調査
●誰に何を聞くのか、調査設計から見直しを実施。
●アンケートの数値データに加えて、お客様はどのようにクレジットカードを使っているのか、どういった価値観を持って生活しているのかを把握。例えば「お金の収支はきっちり管理したい」という価値観からは、将来のお金のことについて漠然と不安があるお客様像が見えた。
ご提案したアクション案
●現時点での利用金額や今月利用できる残高をすぐ確認できるところに表示。
●家計簿機能を追加するなど、施策を実行したことでNPSも向上した。
推奨意向を問う設問を入れればスコアは測れるため、「NPSをちょっと取ってみよう」と手軽に始められるのですが、その後の分析のイメージを明確にしていないと、ロイヤルティ向上のための施策を考える段階になって、「あれ、この後どうしたらよいんだっけ」という状況に陥ってしまいます。
3 その人の「価値観」がわかる調査を!
クレジットカード会社のケーススタディを見てわかるように、感動体験を創出するためには、自社との接点から一歩引いて、お客様の「生活全体」に目を向けて見ることが重要です。
「NPSスコアを選んだ理由」のフリーアンサーだけでなく、お客様がどのようなときに幸せと感じるのか、どのような悩みを持っているのか、どのようなことを大切にしているのか、より具体的にお客様のことが理解できるような設問を調査項目に入れてみましょう。
お客様の価値観が明らかになれば、自社に共感してくれているお客様、つまり、ロイヤルティの高い推奨者を見つけやすくなります。さらに推奨者の価値観を把握できれば、その価値観を満たすことができるアクションを他のお客様にも体感してもらうことで、結果的に、ブランド商品・サービスへの共感が高まり、ロイヤルティの向上につながるのです。
では、NPS調査を行う際にお客様の価値観を引き出すには、どのような設問を入れるのがよいでしょうか?
4 NPS調査は「検証型」ではなく、「探索型」にしましょう!
皆さんは「定量調査」「定性調査」という言葉を聞いたことがありませんか?
実はこの2つの設問手法は目的が大きく異なりますが、上手に使い分けることで、より効果的にアンケート調査を行うことができるんです。
■定量調査=検証型
主に「はい/いいえ」などの選択肢で構成されたアンケート調査。統計的に数値化できるデータの収集が目的。
■定性調査=探索型
インタビューやフリーアンサー、観察調査など、対面形式で意見を吸い上げる調査。
「はい/いいえ」では答えられない行動の理由や経緯を読み解くことが目的。
先ほどのクレジットカード会社のケーススタディを例に、2つの手法を使って設問項目を考えてみましょう。
検証型では、「はい/いいえ」を問うだけでなく、「あなたは以下の項目にどの程度満足していますか」という設問に応用することもできます。検証型では、「はい/いいえ」の選択で答えられるように、お客様が自社の商品・サービスをどのように思っているのか、どの項目に対し評価してもらえばよいのか、事前に仮説立てしなければならないことに注意しましょう。
一方の探索型は、
Q.あなたの行動として下記の選択肢から近いものをお答えください。またその理由を教えてください。(フリーアンサー)
○将来のことを考え、お金は計画的に使う ○今を重視して、欲しいものは我慢しない
というように、数値には表れにくい価値観や感情、理由、経緯を調査するのに適しています。
一般的にアンケート調査というと、はじめに仮説があって、それが正しいのかどうかを把握する「検証型」が多いものです。でも、正しいかどうかは判断できても、検証型では「なぜそのようになったのか」までは把握できません。
お客様の行動や感情の裏にある心理や価値観は、お客様の声と向き合う「探索型」の調査で見えてきます。NPS調査では、自社商品・サービスのお客様はどんなお客様なのかをより深く知るために探索型の調査を意識してみましょう。特にNPSの伸び悩みを感じているご担当者様には、探索型調査を試していただくことで、よりお客様と向き合えるきっかけとなるでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
NPS調査は分析の仕方がとても重要ですが、その分析に必要なデータを集めるための設計も、とても重要だということがお分かりいただけたのではないでしょうか。
次回、第5回の本記事では、1月25日に実施したセミナーのレポートをお届けします。お楽しみに!
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