「ファーマコンサルティンググループ」設立の背景

従来型のコンサルティングファームでは、産業別の組織を編成し、その専門性を武器に経営戦略の立案やビジネス課題の解決を行うのが主流です。しかし、IMJのようなデジタルエージェンシーでは、これまで産業別の組織編成によるサービス提供を、あまり行ってきませんでした。

というのも、マーケティングの「デジタル化」という流れの中で、コンテンツのデジタル化やツールの導入、活用方法の模索を優先するクライアントのニーズが多くを占めていたためです。しかし、そういった「デジタル化」の取り組みが一巡した感がある中で、私たちの提供するデジタルマーケティング支援サービスに対し、より成果を求められるようになってきました。

産業別の課題を解決するためには、これまで以上に顧客理解、業界理解、マーケット理解を深め、専門的な知見を集約する必要があります。そこで、より効果の高いマーケティング支援を提供するために、医療系のマーケティング支援や事業会社のコンサルティング経験豊富なメンバーを招集し、ファーマコンサルティンググループを立ち上げました。

ここからは、同グループ主催のセミナー※で取り上げられた「カスタマージャーニーマップ」を例に、ファーマコンサルティンググループのコンサルタントが、そのサービスの一部を紹介します。消費者の購買プロセスや潜在的ニーズが特殊な業界は製薬・医療機器業界だけではありません。業界に特化したマーケティング事例を知っておくことは、金融業界や自動車業界など、他業界におけるマーケティング活動においても大きなヒントとなるはずです。

※「製薬/医療機器業界におけるカスタマージャーニーマップ(CJM)作成・活用のポイント」ファーマコンサルティンググループ 2018年6月開催

セミナー登壇者

Pharma Consulting Group
事業部長
シニアコンサルタント
大澤 美紀子

 

Pharma Consulting Group
コンサルタント
奈幡 智朗

 

「製品中心」から「顧客中心」のマーケティング戦略が求められる理由

製薬・医療機器業界では、営業担当者(MR)数の削減や病院への訪問規制などの影響により、医師や医療従事者とのタッチポイントが減少し、対面営業を重視してきた製薬メーカーにとって、営業担当の支援や代替をいかに行うかが課題となっています。

また、必要な情報はインターネットを使って入手するという医師も増えており、MRを通じて自社商品の特長をメッセージングするという従来のマーケティング活動だけでは、医師のニーズを捉えきれなくなってきているのが現状です。

こうした医師の情報収集・製品(薬剤)購買プロセスが変化する中で、より顧客を理解するための取り組みとして、関心を集めているのが「カスタマージャーニーマップ(CJM)」です。

カスタマージャーニーマップは、顧客が商品やサービスを購入するまでの行動・思考などのプロセスを可視化するツールのこと。顧客中心のマーケティングを実現するツールとして製薬・医療機器業界からも注目を集めていますが、CJMを作っただけでは、顧客中心のマーケティングとして不十分で、施策や検証に活用していく必要があります。
なんのために作成するのか、作成後にどう活用するかを定義することで、CJMによって明らかにすべき範囲と深さが明確になります。
その上で、適切にポイントを押さえて作成していきます。

業界特化型の「カスタマージャーニーマップ」とは

顧客中心のマーケティングの第一歩は、顧客を知ることにあります。
顧客を理解するためのアプローチの一つとして「ペルソナ」定義が挙げられますが、「ペルソナを作ってはみたものの活用できない」というケースは後を絶ちません。

活用できない原因の多くは、作成したペルソナが職業や年代、性別、趣味といった「プロフィール」が中心で、顧客の思考パターン・ビジネス目的などの「インサイト」が欠けていることにあります。

特にBtoBビジネスの領域では、顧客(購買担当者)の意思決定プロセスを踏まえて作成する必要がありますが、それが考慮されておらず、自分たちの製品理解が最大の関心事となっているような、実際には存在しない人物像を作り上げているケースが目立ちます。

製薬・医療機器業界の場合、顧客対象は薬剤の処方権や製品の採用権を持つ医師になりますが、「医師」と一口に言っても、病院/医院勤務、専門医/非専門医、診療科など多岐にわたっていて、同じ薬剤に対するニーズも異なります。顧客の購買ニーズや製品選定プロセス、選定基準が明らかになっていない状態では、顧客のインサイトを深掘りすることは難しいでしょう

また、ターゲットを広く捉えすぎるあまり、せっかく作ったペルソナを活用できないというケースも増えています。
同じ薬剤を購入する場合でも、購買担当者の意思決定における判断軸は異なります。購買担当者の中でも、特にコミュニケーションの中心になる層を適切にセグメンテーションすることで、より明確に顧客のインサイトを捉えることができます。

製品をどのように選択し、検討、採用するのかという「プロセス」に加えて、どうしてその意思決定がなされているのかという「判断基準」を理解できて、初めて「顧客を理解できた」と言うことができるのです。


顧客理解をマーケティングに活用するためには、顧客の心情や状態を把握するだけでなく、行動の変化を具体的に描き出すことが重要です。

1 顧客の現状がどのような状況にあるのか
2 どのような情報に触れるか
3 その情報により認識や行動がどのように変化したのか

具体的な行動につながるきっかけをカスタマージャーニーから見つけ出し、次の行動を促進する情報の内容・表現、伝達・配信の仕方を一連の流れに組み上げることで、カスタマージャーニーを基にした、顧客の行動を促す施策を打つことができます。

例えば、頭痛における医師の薬剤選択を考えてみましょう。

例えば「痛みの早期除去」を治療方針とする医師の場合、その医師の薬剤選択における第一優先事項は「即効性」だと考えられます。この医師の「信条」は「効率的に効果を上げられる治療」の実践であり、効率性=即効性という認識が形成されています。

そこに、「持続性」が高い薬剤の採用を働きかけていく場合、メーカーとしては薬剤がどのような特徴を持っているか、どれほど効果が持続するか、機能面の訴求をし、即効性よりも持続性が重要というアピールをしがちです。

しかし、そのアプローチでは医師が「信条」を変えて持続性の高い薬剤を選択することはありません。「信条」はいわば医師の価値観であり、価値観を変化させることは容易ではないからです。

ですが、「効率的=即効性がある」となっている認識を、「効率的=持続性が高い」という形にアップデートしてもらうことは可能です。
「持続性こそが効率性」に変えるためには何が必要なのか? 変わるきっかけは何か? 変化の段階はどのようになっているのか?という認識の変化を促す状況と情報を、カスタマージャーニーによって創造していくのです。インサイトに基づいたプロフィール=ペルソナを作り、顧客が購買に至るストーリー=カスタマージャーニーを描くことが、顧客中心のマーケティングの入り口です。

カスタマージャーニーを作ることで、コンテンツ企画、コミュニケーション施策の検証、マーケティングオートメーション、データ基盤構築など、多くの領域でより仮説の精度や効率を上げていくことに繋げられます。

デジタルマーケティングの知見+専門性のある業界知識

ファーマコンサルティンググループの取り組みは、IMJがこれまで得意としてきたデジタル領域や顧客視点の知見に加えて、本来コンサルティングファームが得意としてきたビジネスや業界視点を兼ね備えたことを示唆しています。

つまり、製品戦略の策定支援から、プライマリリサーチ、コミュニケーションプランニング、コンテンツクリエイティブ、システム・ツールの導入/活用支援、効果検証まで、マーケティングプロセス全般にわたり、一気通貫でのサービス提供が可能になったということです。

デジタルと専門性を組み合わせたIMJの業界特化マーケティング支援に、今後もご期待ください。

IMJのファーマコンサルティンググループは、医療マーケター・医療コンサルタントで構成され、各人の出自を生かしながら、業界に特化したマーケティング支援を行っている。