業界を超えて集結し、マーケティングの未来を考えるAdvertising Week Asia

世界最大級のマーケティング&コミュニケーションのプレミアイベント Advertising Weekのアジア版である「Advertising Week Asia 2019」が5月27日()~30日(木)、 東京ミッドタウンにて開催されました。

IMJはグループ会社のアクセンチュア インタラクティブとともに複数のテーマで登壇しました。本記事では、味の素株式会社の松本大樹氏と株式会社アイ・エムジェイ アカウントマネージャー林優次とシニアコンサルタント西川祐介が登壇した講演をレポートいたします。 

(左)味の素株式会社 松本大樹 氏(中央)株式会社アイ・エム・ジェイ シニアコンサルタント 西川祐介 (右) 株式会社アイ・エム・ジェイ アカウントマネージャー 林優次

本セッションのPart1『年間1億PVに成長したオウンドメディア「AJINOMOTO PARK」のネクストフェーズ』では、味の素社 松本氏より、AJINOMOTO PARKのこれまでの変遷から現在、そしてこれからのチャレンジについて紹介されました。 

顧客体験が競争力になる時代、メーカーのオウンドメディアは何を考えていくべきか?

冒頭、松本氏は、「TVCMで認知を形成し店頭に商品を数多く積んでいくだけで商品を売るのは、もはや難しい時代になった。いかに顧客に寄り添い、継続的な接点を持ち、自分ゴト化してもらうかが重要と取り巻く環境変化ついて触れ、これから顧客体験が競争力になる時代であると話しました。

では、今、メーカーのオウンドメディアが本当にやるべきことは何なのか?

事業貢献に紐づくKPIを新たに設定し、本質的な活動へシフト

2012年に立ち上がり、今では年間1億PV超、会員数100万人超に成長したAJINOMOTO PARK」。 

これまでの変遷としては、まずは会員数をKPIとして接点の獲得に注力した初期フェーズ。続いて、2016年頃からは、集まった会員との接点の強化を目指し、モバイルシフト、SNS強化を行うフェーズに転換し、KPIはPV・UU移ったことを振り返りました。 

「ただ、会員数やPV・UUが成長をしてきても、やはりブランドサイドや経営層からは事業への貢献を問われる」と、松本氏。 

そこで、あらためて本質に立ち返り、オウンドメディアの立ち位置を【生活者課題を解決し、事業に貢献する】と再定義し、本来の目的である"商品を使って料理をしてもらう"(≒結果、家庭内の調味料の在庫が減る)」という部分にきちんとフォーカスを当てた活動に切り替えていこう という視点に至ったと言います。 

その考え方のもと、事業指標と結びつく形でデータの可視化を行っていることを紹介。具体的にはKPIはPV・UUではなく、新たな事業貢献指標を採用しているログデータとアンケートを掛け合わせた分析データをもとに、"ある特定の閲覧行動を取っているユーザー=実際に料理を作っているユーザー"と判別し、事業貢献度合いを測っている」と解説しました。 

この動きにより、「これまでは、コミュニケーションだから……。』とある種PV・UUで逃げていたかもしれないが、今は事業指標と結びつけることで、本質的な活動にシフトできた」と大きな転換があったことが語られました。 

「AJINOMOTO PARK」が今、取り組む3つのチャレンジ

次に、そのような事業貢献への土台ができた上で、今まさに取り組んでいるチャレンジとして、さらに顧客体験を向上していくために生活者視点とデータを高度に掛け合わせていくための3つの動きを具体的に紹介しました。 

1.生活者視点での統合的なコミュニケーション

「例えば、 ブランド施策のコミュニケーションテーマを設定したとき、マスの商品起点とは違い、デジタルではより生活者起点でコミュニケーションを意識し、より自分ゴト化してもらう。」

このような、統合的な接点による成果を定量的に把握した結果、マスとデジタルの体験を積み重ねた生活者の方がより態度変容することが見えてきていると明かしました。 

2. ロイヤルティループを生む体験づくり

コアファンの調査から、あるべきロイヤルティループ(どのような気持ちの変遷と行動をたどるとよりロイヤルティが高まり、事業に貢献していくのか)を描き、事業貢献指標と結びつけるということをしている。可視化されたループをもとに、コミュニケーション設計やチーム内の役割分担などに落としこみ、日々の運用を行っていると説明。 

3. 顧客体験高度化のためのデータの戦略的収集

日々蓄積されるデータを活用することで、どういった体験の提供が、よりコンバージョン(レシピを作るという行動)につながるのかという検証をしている、とのこと。 

例として、生活者のインサイトをとらえるとき、朝の来訪者には朝ごはんのレシピを出すといったタイミング起点で考えるのがいいのか?もしくは、「中華のおつまみが知りたい」といったニーズ起点で考えるのがよいのか?あるいは、性別や年代などの属性起点で考えるべきか?ということについて、ニーズ起点がもっともCVRが高いことが分かったと紹介。 さらに、今後は、データの活用先をオウンドメディア以外にも広げていくことにチャレンジしていくと話しました。 

自ら未来のマーケティングを見据え、進化させていく推進役となる

松本氏のパートの最後では、冒頭で示したテーマである「顧客体験が競争力になる時代に、メーカーのオウンドメディアが何を考えていくべきか?」という問いに対し、ここまでの話を踏まえ、

  • 本質に立ち返り、事業に貢献すること。
  • 継続して成果を生み出すために、事業の一部として機能させること。
  • 未来のマーケティングを見据えて、次のやり方を社内に提案し、進化の推進役となること。

の3点が重要であるとまとめました。

オウンドメディア3.0の先に進むために、マーケターに必要なものは?

本セッションのPart2では、IMJ西川が登壇し、オウンドメディアがネクストフェーズに向かうにあたって、マーケターに必要になる視点や思想へ焦点を移しました。 

西川は、「AJINOMOTO PARK」の変遷を、オウンドメディア1.0~3.0という進化のフレームで捉え直した上で、「マーケティングの統合がさらに進む3.0以降は、もはやオウンドメディア単体の戦略ではなくなってくる。今後は、顧客体験を組織全体として、いかに統合していくか?その中でデジタルのチームが何をするのか?が論点になる」と述べ、「その実現にあたっては視点の切り替えが必要。」と強調。 

顧客体験は、すべての接面での蓄積評価

その切り替えを行うためには、「顧客体験は、体験全体を通じたすべての接面(接点ではなく、あくまで接面)の蓄積評価であるという思想を持つこと。そして、その体験評価をKGIとしたKPIを設定してマネジメントしていく仕組みや組織を作ることが必要になる。」

「オウンドメディアの今後の論点としてお話しているが、聞いていただいてお分かりの通り、これはもはやオウンドメディアの論点の域を越えている」と前置きした上で、「マーケターの視野も広げて成長していく必要性がある」とした。 

さらに、アクセンチュアが発表した、世界のテクノロジートレンドに関する最新の調査レポート「テクノロジービジョン2019」より“ポストデジタル時代の到来” というキーワードを挙げ、今後インタフェースがモバイルからさらにスマート化することやAIによるパーソナルアシスタントの普及などが予想される中で、「顧客を理解し、課題解決する」という本質的な視点は変わらずに持ち続けた上で、変化させ続けるマインドや、変化の仕方=ピボットの仕方さえもマネージしていく姿勢が重要になると説きました。 

セッションの最後Part3では、IMJ林のモデレートもと、松本氏と西川を交えたトークセッションを実施。ブランド側の理解を得るための指標づくりの難しさ、どうしても部署異動が発生してしまう中、いかにうまくチーム作りをしていくか?など、実際にプロジェクトを進めるにあたって、発生しているリアルな課題を、両社ワンチームで取り組むことで日々解決していることが明かされました。 

 デジタル施策をいかビジネス指標につなげて効果測定していくのか? 生活者視点でマスとデジタルが統合されていく中で、どのような仕組みや組織の体制づくりをしていくべきなのか? 今、マーケターはどんな視点をもつべきなのか? 

 メーカー・企業はもちろんのこと、我々のようなマーケティング支援に携わるプレイヤーたちが共通に抱えているのような課題に対して、大きな示唆やヒントを与えるセッションとなりました。