無人化しつつも、よりよい顧客体験が作られているサービスは?
ビジネストレンドとして、ひとつのキーワードになっているのが、無人レジや無人店舗。
無人化してデジタルで代替していくことで、業務の効率性をあげる、コスト削減を図る、人手不足を解消するといったビジネス視点の価値のみならず、待ち時間をなくすなど利便性をあげる、ECサイトのようにパーソナライズするといったユーザー価値を上げることができると考えられています。
特に、Amazonのような巨大なプラットフォームと紐づく場合は、データを活用した体験の最適化が今後さらに価値をもってくると思われます。
ただ、そのような利便性やデータドリブンでの最適化の面ではなく、より顧客の心理的な側面に注目した場合、どのような体験価値があるのでしょうか?
すでにサービス化している事例からヒントを探っていきたいと思います。
事例1:試着し放題の無人ドレスレンタルショップ「Empty Dressy」
概要:
- LINEで予約し、事前にオンライン決済。どのドレスでも均一料金。
- 店舗(ビルの1室)の開錠キー(番号)が送られてくる。そのキーで当日入室。
- 好きに試着したのち、レンタルするドレスの番号をLINEで送り、退室。
- 期間内に持参して返却するか、郵送返却する。
ポイント:
「店員さんがいると、試着がはかどらない」というユーザーの心理的な部分を解決している事例。無人であること自体がユーザーにとって大きな価値になっている。
実際に利用した弊社の社員に聞いてみたところ、「家族と一緒に行って気兼ねなくドレスを選んだ」「コスプレ気分で、『こっちも着ちゃおうかな』と盛り上がった」とのこと。
「店員さんよりも、友人や家族の率直な意見の方が重要」「楽しみながら試着したい」「ドレスの場合、普段着よりも着てみないと分からない」といったユーザーの心理をうまくとらえたことで、顧客価値が生まれていると思われます。
もし試着自体にエンターテイメント性があるとすると、ARやアバターによる試着の場合、利便性は上がっても、その情緒的な体験価値は損なわれてしまう場合もあるかもしれません。
また、自宅で試着して返送できるサービスと比べた場合、事前に選ぶ手間や返送する手間がない、その場で一気に多くの商品を実際に手に取って試せるという部分が価値になっていそうです。
動画やサイトで事前にどんなフローか伝えることで利用前の不安を解消したり、ユーザーが使いなれたLINEを活用し、気軽にリアルタイムで申し込めるようにしたり、無人であることの不安解消に配慮があることもポイント。
センサーなどは活用せず、最低限のテクノロジーとコストで無人店舗を実現しています。
事例2:オフィス無人コンビニ600
概要:
- RFIDタグを利用した商品管理を行い、キャッシュレスで利用できる、オフィス向け無人コンビニ。
- 専用端末へクレジットカードを通し、好きな商品を取り出すだけで決済。
- オフィスビルのエレベーターや、ランチタイム時のコンビニなどでの行列で発生するロスタイムを無くし、業務時間の効率化を図ることができる。
- 企業ごとの専任のスタッフが社員からの要望を受けとり反映するコミュニケーションを行うコンシェルジュサービスがある。
ポイント:
無人である代わりに、コンシェルジュという役割を導入している事例。
社員は普段使い慣れているSlackやLINEといったチャットツールを通じて、コンシェルジュに直接要望を伝えることができます。
顔が見える店員はいないが、チャットでつながることで、コンビニよりもパーソナライズされ、ぬくもりを感じることができるコンビニエンスさを実現しています。
実際のチャットの会話事例を見てみても、企業がSNSでカスタマーサポートしつつ、ユーザーとの心理的距離を縮める姿にも重なって見え、ある程度自動応答でも可能なはずですが、実際に人が返答しているところに価値がありそうです。
また、導入する企業の総務メンバーにとっては、社員と業者が直接やりとりすることで、間にはさまれる必要がないという点も価値ではないでしょうか。コンシェルジュは、利用データについてのレポーティングまでおこなうようで、会社の働き方や健康面の課題も見えてくるという価値もあるとのこと。
今後のビジネス展開として、高層マンションへの設置なども進めているようで、ミクロな商圏でのサンプリングや広告などマーケティング活用の可能性も予想されます。
事例3: 無人サラダレストラン Eatsa
概要:
- 2016年よりサンフランシスコにて運営されている無人レストラン。
- ビーガンをメインとしたカスタマイズサラダが購入できる。
- モバイルor店内のタブレットから注文。 タブレットの場合、クレジットカードで認証。
- 出来上がると、店舗内のサイネージで表示され、自分の名前が表示されたロッカーで受け取る。
ポイント:
無人レストランとして有名な海外事例。店舗の写真を見てお分かりの通り、未来感のある店舗UX・デザインが特徴です。
店頭のオーダー用端末もスクロールインタフェース、受け取り用ロッカーのドアまでサイネージ&タッチインターフェースで未来感があり、まるでスマホを店舗内まで拡張した印象。
ちょうどサンフランシスコに出張に行った弊社社員に体験してきてもらうはずが……、残念ながら改装期間だったので、利用者の動画などを検索し現場のイメージを確認してみました。
サイネージになっているロッカーのアニメーションとダブルタップして扉が開く体験を動画に残す人が多いようで、意外とこのUXがコアになっているのではないかと思いました。
もうひとつが、自分好みのサラダがスムーズに手に入るということです。
カスタマイズやトッピングの種類が多いので、口頭注文よりもデジタルでの注文の方が便利(ミスもない)ですし、リピーターの場合は、同じメニューを頼むこともあるので、事前のリオーダーはもちろん、その場の注文もカード履歴で以前のオーダー履歴から注文可能な点はユーザー価値になっているでしょう。
カスタマイズが多い店舗のオーダーは対面のほうが逆にストレスになってしまうこともあると思いますが、デジタルで事前にオーダーできるほうがストレスを感じにくいのではないでしょうか。
ただ、ランチタイムはお腹を満たすだけではなく、気分も変えたい心理もあるはず。おしゃれな内装の店舗に入店して、受け取るという行動は、宅配で済ますよりも、そういった気分転換の価値があるのかもしれません。
ロッカー受け取りという意味では、日本でも、秋葉原にブリトー専門店ができたり、サントリーがカスタマイズコーヒー店「TOUCH-AND-GO COFFEE」をOPENしたりと事例がではじめています。
3つの事例から見えてきた顧客体験向上のポイントとは?
無人化(デジタル化)しつつも、顧客体験価値を向上させている上記の3事例から見えてきたポイントをまとめます。
まず、無人化でコストカットすることで、価格を抑えること、スムーズな体験で利便性をアップすることは前提として、さらに心理的な心地よさを与える体験になっていることが共通点としてありました。
具体的には…
- 対人・対面では言いにくい要望や希望を叶える体験になっていること。
- 無人なのに、どこか人間味や遊び心を感じる工夫があること。
- 情緒的な面で大事な体験は、安易にデジタル化してしまわないこと。
- 自分の普段のスマートフォンやPCとシームレスにリアルにつながっていくような体験になっていること。
今回は無人店舗というテーマでの事例研究でしたが、無人化に限らず、顧客体験をデジタル化していくときのポイントにもなると思いますので、参考にしてみてください。
おまけ:無人の古本屋 「BOOK ROAD」
今回、無人店舗の事例を研究する中で、見つけた超アナログ事例を紹介します。東京の三鷹にある本好きがあつまる看板のない無人の古本屋、「BOOK ROAD」。
今朝も健康そうでした。
— 無人古本屋 BOOK ROAD(unmaned book store) (@bookroad_mujin) June 21, 2019
来店いただいた方、丁寧に使っていただきありがとうございました! pic.twitter.com/wIJ448RNn3
店員がいないことで、何か買わないといけないという強迫観念から解放し、ふらっと立ち寄れる空間にしたかったそうで、そこは、「Empty Dressy」に似た部分があるなと思います。また、本代は一律で、ガチャガチャで払う仕掛けになっているのですが、これもサラダレストラン「eatsa」の扉と同じような遊び心を感じます。なんと訪問客とのやりとりは置手紙らしく、無人なのに人間味を持ってつながっている点は、「オフィス無人コンビニ600」のコンシェルジュとつながりますね。